第1回演劇講習会レポート (文責・研究局 重盛)
【1】 講習テーマ
2007年7月30日(月)、都中劇研初の試みとして、「中学生のための演劇講習会」が実施された。講師に中劇研役員で全国で演劇講習の講師経験が多い照屋洋さんをむかえ、中野区立中央中学校の体育館で約3時間に渡って行われた。演劇の講習会というと発声や演技等の技術的なものをイメージすることも多いが、今回は「演劇はコミュニケーションである」という一貫したテーマに基づいて講習が行われた。以下にその概要を記したい。なお、なるべく系統立てて紹介するため、記述順と当日の構成順とは異なっている部分がある。また、文字だけでは伝わりづらいので、是非、サイトに掲載している写真も参考にして頂きたい。
【2】 発声練習
発声一つ取っても、声を大きくするのは腹式呼吸や滑舌等様々な要素があるが、一番大切なのは「伝えようと思う強い気持ち」だということをいくつかの例を挙げて確認していった。
初めに、二人組で距離を変えて声を掛け合う。距離の変化によって声の大きさや方向が変わってくる。また「一斉対話」という、大勢で二列に分かれてそれぞれの列の特定の相手と一斉に会話するという練習法を紹介した。[写真1,2]どちらも大切な事は、ただ、大きい声を出す事ではなく、声を出す目標をハッキリ意識する事である。これは各学校で日常行われている発声練習でも非常に有効である。
次に列ごとに先頭から番号をつけていく。ただ、前から番号を言うように指示した時と、列ごとに競争にした時では、明らかに声の出し方が違う。これも「伝えたい」という思いが、自然と発声を変えていく例として興味深かった。
さらに発展として「クマが出た!」ゲームを紹介していた。[写真3]10人ずつで並び、先頭が「クマが出た!」と言うと2人目が「えっ?」と聞き返す。先頭はもう一度「クマが出た!」といい、2人目は3人目に「クマが出た!」と伝える。3人目が「えっ?」と聞き返すと2人目ももう一度先頭に「えっ?」と聞き返し、先頭からまた「クマが出た!」を4人目まで伝え、そこからまた先頭まで「えっ?」と聞き返す。これを繰り返して、早く最後まで言った方が勝ちというもの。多分、多くの方が知っていると思うが、これを発声の練習として利用するという発想は初めてで新鮮だった。その後、「クマが出た!」を「愛してる!」に変えてやったのがまた傑作だった。
【3】 メインワーク
講習の中で多くの時間を割いたのは、全員で自由に歩きながらのワーク。これも、多くの講習で経験するが、非常にパターンが豊富だった。
1.自由に歩きながら、全体が均一になるように広い場所に移動していく。
これは、周りの状況を感じながら、自分の位置を決めていく。立ち位置のバランス感覚や臨機応変な反応の基礎感覚を養うものだ。
2.グループ作り[写真4,5,6]
自由に歩いている状態から、指示された人数のグループを作る。中学生では、つい、顔見知りとグループを作りたがるが、「他の学校の人と2人」「男子を入れて7人」等、指示に工夫があり参考になった。また、「早くグループを作るために大切なのは何だろう?」と問いかけ、「自分から積極的に声を掛ける事」という意見を参加者から引き出していた。グループ作りは、色々な講習やレクレーションで目にするが、このポイントをきちんと確認する姿勢は見習いたい。
3.グループ作りから整列ゲーム
10人のグループ作りから、「アイウエオ順」「誕生日順」等の条件で一列に並ぶ時間を競うゲームに移行する。集まるだけなら「声をかける」だけでよいが、順番に並ぶためには、相手の言う事を聞き、自分の言いたい事を伝える作業が加わるので「声を掛け合う」ことが必要になる。
4.自由に歩きながら、周りの状況を観察する。[写真7]
全員で歩いている途中でリーダーの指示で目をつぶり、「黄色い服を着ていた人」「近くの男子」等、指示されたものを指さす。初めに対極として、「歩きながら親指で他の指を順にサワリながら、100まで数える。」という指示の後に同じ事を要求し、携帯電話をいじりながら歩いているときにコミュニケーションを遮断していることを擬似体験させていた。なるほど。
5.グループ作り方からポーズ[写真8,9,10,11,12,13]
4までは全員で行ったが、5,6ともに他の人の表現を見る事で得るものも多い。ここからは全体を5つに分けて、1グループ20人ほどで交代にやる形式で行った。指定された人数で、様々なポーズを取ってオブジェになる。誰かが積極的にアクションを起こし、それに対応するポーズを取っていく事が必要。参加者が慣れるに従って、「他のメンバーの体に触れた状態」という条件を加えていた。お互いに発声はしないので、身体表現を感じ合うコミュニケーションのワークとして有効だと思う。
6.2人組でセリフのやり取り[写真14]
2人組を作り、一人が先に歩き、もう一人が後を追う状態で、自由に歩きながら指定されたセリフを言う。1回目は、先に歩く方が「ついて来ないで」といい、後を追う方が「ついて行きたい」という。2回目は、後ろが「ねえ」といい、前が「だめ」というもの。先に言う方は自由に設定を考え、後に言う方は打ち合わせなしにニュアンスに合わせて、自分のセリフを返す。短いやり取りの中に非常に豊かな様々な表現が見られて、非常によいエチュードだと思う。短時間で出来るので、いろんなバリエーションを付けて、日常活動に取り入れていきたい。
【4】 まとめ
最後はゆったりした音楽を聴きながら、横になって心身をリラックスさせた。[写真15]まとめの話の中で、「演劇をする事は、周りに関心を持ち、より良く生きていく事と同じ。」という講師の考え方に基づいて、「みんなで仲良くする事と、環境のことや世界の事に関心を持ち、自分を豊かにしていくことが大切。」ということを強調していた。[写真16]少し抽象的な話なので伝わるかどうか心配だったが、アンケートに「先生の最後の話に感動した」という感想もあり、安心した。
参加者96名中、91名がアンケートに答えてくれたが、8割の「面白かった」「役に立った」という意見に混ざって、1割弱の参加者が「面白くなかった」「役に立たなかった」と答えている。特に3年生の参加者にその割合が高く、より実践的な内容を期待していた事が伺える。多様な要求にどう応えていくかが今後の課題である。
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