『夢幻図書館へようこそ』 コトハ    西暦2008年、中学生の少女。日本人 ムゲン    夢幻図書館の館長。フランス人 トワノ    夢幻図書館の司書。主に本の検索や事務手続きを担当 フミコ    西暦2020年、国語科の女教師。日本人 オートリー  西暦1850年、舞台女優。イギリス人 オサム    西暦1950年、男性小説家。日本人 ラット    西暦2900年、怪盗。フランス人 トモコ    西暦2008年、中学生の少女。コトハの親友。オオサカから引っ越してきた 友達A    コトハの友達 友達B     〃 友達C     〃 ワームA〜  夢幻図書館に住む精霊。警備、掃除、お茶汲みなど、いろいろな仕事をする ACT1  コトハの周りに友達たちがいる。それぞれ手にプレゼント(包みや箱)を持っている。 友達A あっちにいっても、がんばるんだよ、コトハ(プレゼントを渡す) 友達B 高かったんだから、大事に使ってね(プレゼントを渡す) 友達C 元気でやれよ(プレゼントを渡す) コトハ みんな、ありがとう  コトハと友達たち、別れを惜しみながら騒ぎあう  そこにトモコが手紙を持ってやってくる コトハ トモちゃん! トモコ ごめん、遅うなって……準備してたら、時間過ぎてしもた 友達A 相変わらずトモコはどんくさいなぁ! トモコ ほんまごめん 友達B 別にいいけど……コトハ引っ越すんだよ? もう会えないかもしれないのに普通遅れる? 友達C まぁまぁ、もういいじゃん。ほら、トモもなんかもってきたんだろ? トモコ あ、うん(コトハに近づいて、持って来た手紙を渡す) コトハ 手紙? トモコ うん……なんやプレゼント考えてたんやけど、何あげたらいいかわからんなって…… コトハ ありが―― 友達B (コトハより先に、トモコから手紙を取る)みせて、みせて! トモコ ちょ、返しい! 友達A どんなん書いたの? 友達B 開けていいでしょ? トモコ 嫌や、それはコトハへの手紙や! 友達A トモはすぐムキになるんだから…… 友達B じゃーコトハが読んでもいいっていったらいいでしょ? トモコ は? 友達A そうよね、コトハがいいならいいわよね     ね、コトハ、これ読んでもいい? いいでしょ? コトハ えっ…… 友達B いいでしょ? コトハ えっと、あの 友達A だめなの? コトハ ダメッていうか…… 友達B いやなの? コトハ イヤっていうか…… 友達A じゃいいんでしょ? コトハ それは…… 友達B いーでしょ? コトハ いや、だから…… 友達C あー、もう、困ってるだろ、返してやれよ 友達B やーだー、気になるー トモコ イヤなんはこっちや! 友達B あんただって何が書いてあるか気になるでしょ? 友達C そりゃ、まぁ気にはなるけど…… 友達B じゃ、決定! 友達A (すでに手紙を開けている)えーと、なんやこうして改めて手紙を書くと恥ずいな トモコ (Aを捕まえようとする)ちょ、待ちぃ!! 友達B (トモコを捕まえる)手紙でも大阪弁なんですねんなー トモコ 誰のマネや、アホ! っつーか、放せ! 友達A 覚え取るか? 友達B しりませーん 友達A コトハと初めておうてから2年やな 友達B そうですねー 友達A あん時のうちは、まだこっちのことよーわからんせーで、めっちゃ浮いてたけど 友達B いまでもでーす 友達A そんなうちに一番最初に話しかけてくれたんが、コトハやったよな 友達B そーだったのかー! 友達A あんとき冷たくしてゴメンな、ホンマはめっちゃ嬉かったんやけど…… 友達B BUT? しかーし? 友達A うち……意地っ張りやから 友達B やーん、トモちゃんかーわーいーいー(トモコのほっぺたをつつく) 友達C (トモコが切れそうになってるのに気づいて)おい、おい! 友達A なによ、こっから盛り上がるとこでしょ! 友達B そうそう、邪魔しちゃ、メッ、だぞ トモコ ……かげんにせーよ コトハ ……トモちゃん? トモコ いいかげんにせーよ!!  トモコ、友達Bを突き飛ばして、Aに襲い掛かる トモコ 人のことおちょくんのもいいかげんにせー!! 友達A ごめ、トモコ、や、ごめん、わかった! やめ、やめて! トモコ やかましい! さっさと返せ、さっさと手紙返せ!  トモコ、友達Aの手から勢い良く手紙を引っ張る。結果、手紙が破れる コトハ あっ……  誰も何も言えずに、暫く無言になる 友達B あの、えっと…… 友達A ……帰る 友達B えっ、あ、そうだ! そろそろ塾の時間が! 友達C ま、待てよ 友達A ……なによ? 友達C 何か、ほら、な、あるだろ? 友達A 知らない 友達C 知らなくないだろう? 手紙、破いたんだから…… 友達A 破いたのはトモでしょ 友達C 勝手に読んだのが原因だろう? 友達A トモが無理やり取ろうとしたのが原因よ 友達C そんなの単なるいいわけで…… 友達A うるいさい! あたしらが悪いっていうなら、止めなかったあんただって同罪でしょ!? 友達C それは…… 友達A ……いくよ 友達B え、あ、う、うん……  友達A、手に残った破れた手紙を捨てて去る。友達B、後を追うように去る。 友達C ……ごめん  友達C、逃げるように去る。  二人になると、コトハ、友達Aが捨てた手紙を拾ってトモコに近づく。 コトハ ともちゃん?  トモコ、近づいてきたコトハの手を払う。衝撃でコトハの手から手紙が落ちる。 コトハ ……ごめんなさい トモコ ……何が? コトハ 何がって……だから……ごめんね? ごめんね、ごめんね、ごめんね?  トモコ、何も言わずにコトハを見ていたが、やがて何も言わずに歩き出す。 コトハ トモちゃん! トモコ ……コトハ コトハ な、なに? トモコ ……さよなら  トモコ、走っていなくなる コトハ ……トモちゃん? トモチャン、待って! 待って、トモちゃん!     ……行っちゃった。そりゃそうだよね、だって、手紙こんなになって(手紙を拾う)     手紙……破れて……さよならなのに……もう、さよなら……さよならなのに!!  世界が支離滅裂な様子(照明が変化したり、奇妙なBGMやSEなどが慌しく入る)に変わる。 コトハ なに!? なに、なんなのこれ!?     ……壁がない!? 家もない!? 空も太陽も地面も、なに、なに、なんなのこれ!? ムゲン (声だけ)さぁ、ワームたち、準備はいいですね? ワームたち (声だけ)あいさー! トワノ (声だけ)座標軸固定。ゲート、開きます ムゲン (声だけ)参りますよ……夢幻図書館! ムゲン・トワノ・ワームたち (声だけ)開館!! ACT2  世界の変化が収まると、コトハは夢幻図書館、受付に移動している。  カウタンーや談笑用のテーブルなどがある他は、見渡す限りの本棚と本がある。  テーブルにムゲンが、受付カウンターにトワノがいる。 コトハ (恐る恐る目を開く)……ここどこ? ムゲン はじめましてコトハさん コトハ だれですか!? ムゲン ムゲンです トワノ トワノです ムゲン どうぞこれからよろしく(握手しようと近づく) コトハ ひぅぃ!!(走って逃げようとする) ムゲン 止まりなさい! コトハ はいぃ!?(止まる) ムゲン 勝手に移動すると危ないですよ コトハ は、はいぃ、ご、ごご、ごめんなさい ムゲン いいですか、初めに申し上げますが、     この夢幻図書館の広さは、ざっと地球の50倍は下りません。     初めてのお客様が1人で歩くなど、危険以外の何ものでも……  コトハ、おそるそる手を上げる ムゲン どうぞ コトハ ……夢幻図書館? ムゲン えぇ、夢幻図書館です コトハ 地球の50倍? ムゲン まぁそれより小さいってことはないでしょう コトハ あの…… ムゲン はい? コトハ ……大丈夫ですか? トワノ ダメです コトハ やっぱり…… ムゲン やっぱりってなんですか!? コトハ ごめんなさい!! ムゲン ……あの、コトハさん? コトハ ごめんなさい! 許してください! 生意気でした!     もう何もしません! もう何も言いません! ムゲン あの コトハ ごめんなさい! ムゲン その コトハ ごめんなさい!  ムゲンとコトハ、暫く『えーと、あの、その』と『ごめんなさい!』を繰り返す ムゲン ……どうしましょうトワノ君? トワノ 土下座でもすれば宜しいかと ムゲン ……申し訳ありませんでした!(土下座する) コトハ (ムゲンを見る)……あの? ムゲン 申し訳ありませんでした! コトハ ……あ ムゲン 申し訳ありませんでした! コトハ あ ムゲン 申し訳ありませんでした!  ムゲンとコトハ、暫く『えーと、あの、その』と『申し訳ありませんでした!』を繰り返す コトハ ……どうしたらいいですか?(トワノに) トワノ 無視してください コトハ いいんですか!? トワノ ようこそいらっしゃいませコトハさん。     私はこの夢幻図書館で司書をしている、トワノと申します ムゲン 夢幻図書館の館長をしております、ムゲンです(何事もなかったかのように) コトハ ほ、本当に無視していいんですね ムゲン はっはっは、慣れてますんで トワノ 馴れすぎててうっとうしいですが コトハ あー、確かに ムゲン コトハさん!? コトハ ごめんなさい! トワノ では和んだところで貸し出しカードを作りましょう コトハ 和んでるように見えるんですか? トワノ えぇ、とっても。さ、そちらのテーブルでお待ちください     (マイクなどでワームに指示を出しながら)ワーム、お茶の用意を ワームA・B あいさー!(お茶とお茶菓子をもって現れる) コトハ 誰ですか!? ムゲン ワームです。この図書館に住んでる精霊のようなもので、各種業務を担当しております コトハ おばけですか!? ワームA・B (激しく落ち込む) ムゲン お化けでも幽霊でもありません。精霊です コトハ どっちもかわらないような……     (ワームが更に激しく落ち込んでるのを見て)いえ、精霊ってすばらしいですよね! ワームたち あいさー!(とても元気に帰っていく) ムゲン ではコトハさん、夢幻図書館の説明をしても宜しいですか? コトハ お、お願いします。何がなんだかさっぱりで…… ムゲン 初めてここにいらっしゃるお客様は大抵そうです コトハ 夢幻図書館にですか? ムゲン そうです。時と時の狭間。空間と空間の間。 あそこでないどこか、いつかでないこの時にあるのが、この夢幻図書館。 地球など比べ物にも成らないほどの広大な敷地には、古今東西、過去未来、 ありとあらゆる時間、ありとあらゆる場所、ありとあらゆる生き物が綴った文章が 収められているのです! コトハ 文章が収められている? ムゲン そうです。有名な小説から、人に見せるには恥ずかしいポエム、お使いのメモに至るまで、 とにかく全ての文章が収められています! コトハ すごいですね! ムゲン すごいのです! コトハ じゃぁ、さようなら。出口はどこですか? ムゲン 信じてないですね? コトハ いえ、その、そんなことは……ちょっと用事があるんで ムゲン いいえ、その目は信じていない……     いいでしょう。ならば、事実だということをお目にかけましょう     トワノ君、コトハさんがここ1年で書いた、個人的な文章を検索してください トワノ 了解(パソコンをいじって本を検索する)19203件がヒットしました ムゲン どれでも構いません、一冊持ってこさせて下さい トワノ 了解(ワームに指示を出す) ワームA お待たせしました!(本を持って出てくる) ムゲン (ワームから本を受け取り)では、失礼して……(本を広げる)     2007年、7月7日、今日は七夕祭り。     ちょっと恥ずかしかったけど、浴衣を出してもらった。     だって、ユウキ君がお祭りにくるっていうから……から。     そして……いたユウキ君だ。ドキっ、目と目があった。     キュン、胸が鳴った。ドクンドクンって心臓の音が大きくなる。そして、そして、そして!! コトハ きゃー!!(ムゲンから日記を奪い取る) 本当に私の日記!? トワノ ……青春ですね コトハ しみじみ言わないでください! ムゲン 青春ですね!! コトハ 元気にも言わないで下さい! なんで、なんでもってるんですか!? ムゲン ですから言いましたでしょ? ここには全ての文章があるって。トワノ君、次 トワノ 了解(ワームに指示を出す) ワームB お待たせしました!(本を持ってきてムゲンに渡し、ワームAと共にコトハを拘束する) ムゲン (本を広げる)私のハートはうさぎ模様。嬉しくなったら、はねちゃうMON☆     私のハートはうさぎ模様。怖がらせないで、逃げちゃうYO♪     私のハートはうさぎ模様。寂しくなったら死んじゃうZO☆     私のハートハうさぎもよ―― コトハ うぁぁぁぁ!! ずっと前に捨てた、オリジナルのポエムー!!(ムゲンから本を奪い取る) ムゲン 間違い無く、コトハさんの日記ですよね? コトハ そうです…… ムゲン 間違いなく、コトハさんが書いた恥ずかしいポエムですよね? コトハ そうですぅ!! ムゲン 納得していただけましたか? コトハ 激しく納得しました ムゲン よろしい。ワーム、本を元の場所に ワームA・B あいさー!(コトハから本を無理矢理ひっぺがし、元の場所に持って行く) ムゲン このように夢幻図書館には、時間、場所、筆者を問わず、全ての文章が集まっているのです コトハ それは分かりました……でも、なんで私がこんなところにいるんですか? ムゲン コトハさんが望んだからです コトハ 私が? あなたたちが連れてきたんじゃないんですか? ムゲン とんでもない! 私たちは訪れたお客様に対応するだけの者 ここにやってくるのは、あくまでお客様の自由意思によるものです コトハ でも私、夢幻図書館なんて初めて知りましたけど? ムゲン 知っている必要はありません。ただ強く、心の底から願い、求めればいいのです コトハ 何を? ムゲン それは人によって違います。例えば  慌しくベル(奇妙な音)が鳴り、照明が忙しく変化する。  空間が切り取られたように、壁やドア(パネル)が現われる コトハ な、なんですか、これ!? ムゲン お客様です。トワノ君 トワノ (パソコンをいじる)座標軸固定。ゲート、開きます ムゲン 夢幻図書館、開館!  音と照明が元に戻り、壁やドア(パネル)がなくなるとフミコが立っている ムゲン ようこそ、フミコさん フミコ お久しぶりです。それと……はじめまして コトハ は、はい! は、はじめ、まして フミコ 私はクニキダ フミコ。西暦2020年で、国語の教師をやっているわ コトハ 西暦2020年!? フミコ えぇ、そうよ。あなたは? コトハ え、あ、えぇ?(独り言のようにぶつぶつと) フミコ えーと、私がどうしかした? コトハ え、あの、その、いえ、なんでも、あり、ません トワノ 彼女はコトハさん、西暦2008年の中学生です フミコ そう……じゃぁ少し前の子ね、よろしく コトハ よ、よろしくお願いします ムゲン それで、今回はどのようなご要望で? フミコ 今度授業で朗読をすることになったの。中学生が読むのにちょうどいい本ってないかしら? トワノ 少々お待ちを……(検索する)12097件ヒットしました フミコ 45分授業が3回。2020年までに本になっている。という条件で絞りこみを トワノ (検索する)21件ヒット フミコ その中で一番貸し出し件数の多いものをお願いします トワノ 了解。只今カードの発行と並行作業しているため、少々お時間が掛かります フミコ よろしくね。で……コトハちゃん? コトハ はい! フミコ そんなに怖がらないで大丈夫よ コトハ は、はい! ごめんなさい! フミコ もぅ……もしかして、ここに来るの初めて? コトハ はい、そう、です フミコ やっぱり コトハ どうして分かったんですか? フミコ それだけ緊張してればね コトハ あの、ごめんなさい フミコ いいえ、私も最初は戸惑ったわ。気付いたらいきなりこんな場所にいるんですものね     それで、今日はどんな本を探しにきたの? コトハ 本? フミコ 本じゃないなら書類とかマンガとか文章とか……     とにかく、何か欲しい言葉があったから、ここに来れたはずなんだけど コトハ 欲しい本……マンガ……書類……文章……あっ! フミコ 思いついた? コトハ ……友達の手紙 フミコ 友達の手紙? コトハ たぶん……他に欲しい文章思いつかないし ムゲン トワノ君、検索を トワノ まだ貸し出しカードが出来ていないので、コトハさんの検索は受け付けられません ムゲン ふむ……ではその間に貸し出しシステムをご紹介しておきましょう。     残念ながらこの図書館では、お客様が館内を歩き回って本を選ぶことは許されておりません。     自分で探してはきりが無い上に、入り組んだ地形で迷子になってしまう可能性もあります。     それ故、トワノ君が希望の本を検索し、ワームたちに運んで貰うことになっているのです コトハ すごいんですねぇ ムゲン すごいのです。     本のタイトルからはもちろん、条件を提示してもらい、絞り込むこともできます。     ですから、文章が存在している限り、必ず探しているモノがみつかるでしょう コトハ よかった…… ワームC お待たせしました!(本を持って来る) フミコ ありがとう(本を受け取る) ワームD お待たせしました!(コトハのカードを持って来る) コトハ 私に? ワームD いえっさ! コトハ あ、ありがとう  コトハがカードを受け取ると、ワームたちは帰っていく トワノ これで準備が整いました。いつでも検索可能です コトハ じゃ、じゃぁお願いします トワノ どうぞ、条件を コトハ と、友達から貰った手紙なんですけど トワノ 検索……ヒット数、51287件 コトハ そんなに貰ったことありませんよ!? ムゲン 先ほどもいいましたが、ここには時間に関係なく、全ての文章が集まるのです     つまり、コトハさんにとって未来の文章も保管されているんですよ コトハ あ、そ、そうか ムゲン もう少し具体的に検索しましょう フミコ 誰からの手紙? コトハ トモちゃんからの トワノ ヒット数、1657件 フミコ トモちゃんの本名は? コトハ えっと、トモコです トワノ ヒット数、652件 ムゲン いつごろの手紙ですか? コトハ えっと、2008年の  慌しくベルの音(奇妙な音)が鳴り、照明が忙しく変化する。  空間が切り取られたように、壁やドア(パネル)が現われる コトハ ま、またお客さんですか? ムゲン そうです。申し訳ありませんが、検索は一次中断します コトハ ど、どうぞ トワノ (パソコンをいじる)ゲート、開きます ムゲン 開館!  音と照明が元に戻り、壁やドア(パネル)がなくなるとオートリーが立っている オート (周りを見渡して)ごきげんよう ムゲン お久しぶりです、オートリーさん。相変わらずお美しい オート そんな言葉は聞き飽きたわ。次はもう少しマシなセリフを用意しておくのね ムゲン 失礼しました。それで、今回はどのようなご用件でしょうか? オート 今度の舞台で使う台本を探して頂戴 ムゲン 畏まりました。しかし、今はコトハさんが検索中で オート コトハ? 聞かない名前ね コトハ あ、あのはじめまして、コトハです オート ふーん……わたくしはオートリー・ヘッドバーン。イギリスの舞台女優よ コトハ えっ、イギリス人!? オート だとしたら、なんだっていうの? コトハ え、あの、質問なんですけど……なんでイギリスなのに言葉が通じてるんですか? オート そんなことも知らないの? ムゲン ここでは、言葉は耳に届いた時に、聞きなれた言語になるようになってるんです     日本人には日本語に。アメリカ人には英語に。火星人には火星語にといった具合に コトハ じゃぁ私の言葉も、日本語じゃなく聞こえてたりするんですか? ムゲン 私にはフランス語に聞こえてますよ コトハ フランス人だったんですか ムゲン えぇ、だいぶ未来のフランス人です。ちなみにオートリーさんは1850年の方です コトハ 1850年!? そんなおばあちゃんには見えな オート おばあちゃんですって!? コトハ ごめんなさいぃ! ムゲン まぁまぁオートリーさん! フミコ あのね、文章が過去のも未来のもあるように、お客さんも色々な時代からやってくるの コトハ そういえばフミコさんは未来の人でしたもんね。     つまり、オートリーさんは昔の人なんですね! オート 昔とは何よ、昔とは! コトハ え、だ、だって オート だってなによ!? コトハ なんでもありません! オート このわたくしをおばあちゃん呼ばわりするなんて……謝りなさい! コトハ ごめんなさい! オート 許すわけ無いでしょう!! コトハ えぇ!? だって、今 オート 今、なに!? コトハ なんでもありません!! オート なんでもないわけないでしょう!? コトハ ど、どうしたらいいんですか!? オート 自分で考えなさい! ムゲン まぁまぁ!! あまりお怒りになると、せっかくの美貌が台無しですよ? オート ふん……それもそうね コトハ あの、本当にごめんなさい(必死に謝る) オート ……いいわ。わたくしも大人げなかったし。で、コトハは何を探してるの? コトハ と、友達から貰った手紙です オート そう……なら、後になさい コトハ え? オート いい? わたくしは大女優。わたくしが舞台に立つのを一万人のお客様が待っているの     それに比べて、コトハは何? コトハを待っているのは何人かしら? コトハ 単なる中学生で……待ってる人はいないと思います オート 手紙がないと困る人は? コトハ いない……と思います オート じゃぁいいわね コトハ は、い……先にどうぞ フミコ オートリーさん! オート なによ、ちゃんと断りはいれたでしょ。ルール違反じゃないはずよ フミコ だからって今のは! コトハ あの、いいんです! 急いでないですし、誰も待ってませんから…… ムゲン ……本当にいいんですか、コトハさん? コトハ はい…… オート ありがと。じゃ、トワノ、これで検索して頂戴(メモを渡す) トワノ 了解 オート 館長、お茶の用意を ムゲン 畏まりました。ワーム! お茶の用意を追加で! ワームたち あいさー!(お茶のセットを持って、用意をしに出てくる) トワノ 検索終了しました オート どうだったの? トワノ 全部の条件を満たすものは、2件ヒット オート 2つとも持ってきて頂戴 トワノ 了解(ワームに指示を出す) オート はぁ、なんでわたくしが台本を探さないといけないのかしら……     それもこれも、あの戯曲家が使い物にならないせいだわ!     まるでわたくしの魅力を理解してないんだから! とくにこの前の台本の出来の悪い―― ワームC お待たせしました!(やってきて本を渡す) オート 本当に待ったわ。あんたも使えないわね  ワームC泣き出す。他のワームたち、お茶の用意を終え、泣いてるワームを引きずりながら退場 オート (本をみながら)ふーん、まぁまぁね…… コトハ あ、あのオートリーさん…… オート 何? 何か用? コトハ あの、その…… オート サインならしないわよ? コトハ い、いりません オート なんですって!? コトハ すみません、ほんとはすごく欲しいです! オート そうよね。そうでなきゃ、人間失格よ。     で、なに? わたくしの美しさに見とれてたの? コトハ 違います オート なんですって!? コトハ 見とれてました! オート 人間正直じゃなきゃね コトハ えっと、それでですね……あの、もう、検索してもいいですか? オート あぁ、そうだったわね。すっかり忘れてたわ。どうぞご自由に コトハ ありがとうございます……(トワノのそばに移動する)じゃ、じゃぁお願いします トワノ はい。では、先ほどの続きから検索します。年代指定は、2008年でよろしいですか? コトハ はい、お願いします トワノ (検索する)5件ヒッ  慌しくベルの音が鳴り、照明が忙しく変化する。  空間が切り取られたように、壁やドア(パネル)が現われる コトハ またですか…… ムゲン 今日は、お客様の多い日ですな……すみませんがコトハさん、検索は…… コトハ 平気ですから、気にしないで下さい ムゲン 本当に申し訳ありません……では トワノ ゲート、開きます ムゲン 開館!  音と照明が元に戻り、壁やドア(パネル)がなくなるとオサムが立っている オサム いやー! どうもどうもどうもどうも! ムゲン相変わらず元気そうだなぁ     よぉ、トワノちゃん。いつも可愛いねぇ、お、なんだい今日はフミコちゃんまでいんのかい?     そんでもって……(オートリーを見て)なんだ、お前もいんのかよ オート 何よその言いぐさは! オサム お、この子は新顔だな オート 無視!? この大女優を無視!? オサム おじょーちゃん、名前は? コトハ えっと、コトハです オサム よろしく、コトハちゃん     オレは1950年で小説書いてる、ダサイ オサムって コトハ えっ、ダザイオサム!? フミコ 違うわよ! ダサイ! ダザイじゃなくて、ダサイ!     ダザイ先生とこんな人を一緒にしないで!! コトハ ふ、フミコさん? フミコ あっ……いえ、その…… オート あなた、たまに容赦ないわね フミコ あ、あの……ごめんなさい、お、オサムさんの本も好きですよ オサム ……例えば? フミコ え、えーと、あ、あれとか……あれとか、あと、あれなんかも! オサム ……ありがとう フミコ い、いえ……  とても気まずい空気が流れる中、コトハ何かしたいが何もできない。  それを見かねたムゲン、空気をかえるように話しを始める。 ムゲン えー、ところでオサムさん、本日はどのようなご用件で? オサム おっと、そうだった! なぁトワノちゃん、急ぎで悪いんだけど、検索頼まぁ! トワノ できません。只今コトハさんが検索中です オサム うっわ……どうにかなんない? トワノ なりません オサム あと2時間もしないで編集が来るんだよ! トワノ 知りません オサム あの鬼編集、締めきりにうるさいのなんのって、人が風呂入ってようが飯くってようが トワノ 検索の続きですが オサム 無視かよ! トワノ さ、コトハさんどうぞ コトハ あの……いいですよ、先に検索してもらって オサム え? コトハ あの、私だったら別に急いでないんで…… オサム 本当にいいのか? コトハ はい、どうぞ ムゲン コトハさん、優先権はあなたにあるんですから…… コトハ あの、でも本当に急いでないですし……     それにお仕事なんですよね? そっちの方が大事だと思いますから オサム くぅぅぅ、泣かせるねぇ……じゃ申し訳ねーが、ご好意に甘えて、さくっと終らせちまおう トワノちゃん。オレの年代から3年以内で、オレが書いた完成した小説を出してくれ コトハ えっ? オサム どうした、コトハちゃん? コトハ あ、あの、なんで自分の小説を探すんですか? オサム だってよ。1から自分で考えるより、未来の自分が書いた奴を使ったほうが早いだろう?     どうせ自分が書いたやつなんだから、盗作ってわけでもねーしな トワノ 検索終了、ヒットは10件です オサム うっし、そん中から、ちゃんと本になったやつ持ってきてくれ トワノ 了解。少々時間がかかりますがよろしいですか? オサム お、なんだい人気過ぎて取り寄せに時間がかかるのかい? トワノ いえ、人気が無さ過ぎて遠くの書庫にあるんです オサム ……ま、まぁいい。いつだって真の芸術は理解されるのに時間がかかるもんよ オート あなたの書いた小説が理解される日なんて、永遠にこないわ オサム あーやだやだ、油ぎった演技しかできない役者が、なんかいってるなー オート なんですって!? わたくしの演技のどこがあぶらぎってるのよ!! オサム 全部 オート きぃ!! いいわ、なら見せてあげるわ! 見なさい、このスバラシイ演技を!     おぉ、ロミオ、ロミオ……どうしてあなたはロミオなの!? オサム ロミオって名付けられたからだろう 全員  たしかに オート 名シーンに! 名ゼリフにぃ!! 名演技にぃぃ!! オサム それより、コトハちゃんは何を探しにきたんだい? コトハ えっと、友達の手紙です。私、引っ越すことになって、友達がお別れ会で集まってくれて…… トモちゃんが手紙を持ってきてくれたんですけど、 皆がふざけて読んでるうちに破れちゃって……     みんないなくなって……ともちゃん、走っていっちゃって……私、何も言えなくて…… オサム で、手紙はみつかったのかい? トワノ その検索中に、あなたが横入りしたのですが? オサム こりゃ面目ない…… オート つくづく迷惑なヤツね フミコ オートリーさんも人のこと言えないと思いますけど オート わ、悪かったわよ…… コトハ 本当なら、私が止めないといけなかったのに、何もいえなくて……     トモちゃん怒らせちゃった……ごめんなさいっていっても、聞いて貰えなかった……     もうお別れなのに……もう会えなくなるのに、さよならって……さよならって……  コトハが泣き出す。他の人間はそれぞれ何かを考えながら、暫く黙っている オサム ……おっし! じゃあオレたちで、お詫びの文章を考えてやろうじゃねーか! オート はぁ? オサム オレの本、届くのにまだ時間かかるんだろ? トワノ あと10分ほどは オサム ならよ、こうしてる時間ももったいねーし、     オレたちで最高のお詫びの言葉を考えようじゃねーか! ムゲン 最高のお詫びの言葉……ですか? オサム おうよ。国語教師、舞台女優、小説家、館長! 司書!     こんだけ言葉のプロが揃ってるんだ。     ただの『ごめんね』じゃなくて、最高の『ごめんね』ができるはずだ! な、どうだ? オート ま、プロと言われては、引き下がるわけにもいきませんわね フミコ 私も、子供のことなら放っては置けないわ オサム よっし! じゃ、早速!! ムゲン その前に! 皆さんが乗り気なのは分かりましたが、肝心のコトハさんはどうなのですか? オート 嫌なわけないでしょう ムゲン コトハさん、宜しいのですか? コトハ え……あの、はい。よろしくお願いします ムゲン コトハさんがいいなら、いいのですが…… オサム うっしゃ! んじゃ善は急げだ。どんなのがいいかね? フミコ まずは、ふざけていた子たちを謝りにいかせるのが筋じゃないかしら? オサム だけどよー、そいつらの顔をみたいと思うか? オート わたくしなら、出てきた瞬間、張り倒しますわね コトハ トモちゃんはそんな乱暴な―― オート なに? コトハ いえ、すみません、とっても強暴です オサム ま、他の奴等には後で謝ってもらえばいいだろ。今は、コトハちゃんの文章を考えようぜ フミコ なら、素直にごめんなさいでしょう? オート だから、そんな単純なセリフじゃ、心は動かないのよ     あぁトモコ……あの時から世界に日は差し込まず、私は闇の中に捕らわれている     例え太陽の神といえど、例え美の女神といえど、例え全知全能の神といえ オサム どーん!(オートリーを突き飛ばす)なんだその古臭い上にクドイセリフ回しは オート 失礼ね、最新の流行よ! オサム はいはい、とにかくセリフにばっか頼ってる間は、一流とはいえねーな     いいか、ここはロケーションってのを味方に付けるんだ。     そうだなぁ、建物一つ視界に入らない、夕日の見える川原なんか フミコ 平成の都会に、そんな場所ありませんよ オサム は? ねぇ? フミコ むしろ川原そのものがありませんから オサム なんってこった…… オート ほら御覧なさい。ロケーションに頼るという発想の方が間違っているのよ     環境は変わっても人は変わらない。つまり、自分の体と自分の声を駆使すべきなのよ! オサム いや、まだ他にも案はある! 泉だ! 泉のある林に―― フミコ ありません オサム ねーのかぁ!! オート ですから、わたくしの言う通りに フミコ でも、素人に先ほどの恥ずかしいセリフを言えというのも無理があります オート 恥ずかしいってどういう意味よ!? フミコ 私はやっぱり、ふざけていた子を謝りにいかせるべきだと思います! オート 無理だっていったでしょ!? フミコ それでも筋は正すべきです! オート ケンカになるのがオチよ!! オサム ケンカ!? それは逆にいいかもしれねーぞ。こう殴り合って生まれる友情がだな!! オート・フミコ 殴って分かり合うのは男だけ! 女は殴った分だけ、陰口叩くの! オサム 女って恐ろしいぃ…… オート・フミコ 恐ろしいとはなによ!?(なんですか!?)  3人、あーでもないこーでもないと言い合いを続ける。  その様子はそのままに、声だけ小さくしていく(最終的に無音で、体の動きだけ)  コトハ、静かに3人から離れ、カウンターにいるムゲンとトワノの近くに移動する。 ムゲン そういえば、聞いていませんでしたね コトハ はい? ムゲン ……手紙、みつけたらどうするつもりなんですか? コトハ どうするって……読みます ムゲン 読んでどうするんですか? 読んだあと、何をしたいんですか? コトハ ……謝ると思います ムゲン 謝るだけですか? コトハ え、は、はい…… ムゲン それはおかしい。ただ謝るだけなら『ごめんなさい』で充分です コトハ でも、それじゃ許して貰えなかったから…… ムゲン では、手紙を読んでから謝れば許してもらえるのですか? コトハ それは…… ムゲン いいですか、コトハさん? 人が何かの文章を……言葉を求める時は、必ず目的があるのです コトハ どういうことですか? ムゲン 朗読をするから詩集が欲しい。劇をやりたいから台本が欲しい。     作品を出したいから小説が欲しい。     何か目的があるから、言葉を求めるのです。ですが、謝ることに手紙は必要ありません。  あなたは手紙を読んで、言葉を受け止め、そしてどうしたいのですか? コトハ ……わかりません ムゲン ……そうですか(移動し始める) コトハ どこか行くんですか? ムゲン えぇ、用事がありまして。トワノ君、後のことは、いつも通りによろしく トワノ 畏まりました ムゲン それでは  ムゲン、どこかにいなくなる。  ムゲンいなくなると同時に、フミコ・オートリー・オサムの3人、普通に喋りだす。 オサム だーからそんなんじゃダメだっていってんだろう!? オート あなたのお粗末な案よりはるかにマシよ! フミコ どっちもどっちです! ですから何度もいうように! ワームD お待たせしました!(ワームDがオサムの本をもってやってくる) オサム なんだよこんな時に(自分の本を見て)あー!!! フミコ なんですか、いきなり大声出して! オサム これだよ、これ。これがあったじゃねーか! オート あなたの取るに足らない小説がどうかしたの オサム 問題なのはオレの小説じゃねーよ。夢幻図書館だよ! フミコ 意味がわからないんですけど オサム だからよ、検索すりゃいいんだよ オート は? オサム いいか、オレたちはこうしてお詫びの文章を考えた。     コトハちゃんも仲直りしたいって思ってる。     なら、未来には完成したお詫びの言葉があるはずだ。それを検索すればいいんだよ! フミコ なるほど…… オート 確かにそれなら、考える手間もいらないし確実ね オサム な、いい案だろ? こうして本も届いた。もう検索はできるし、早速やろうじゃねーか! フミコ トワノさん、お願いします トワノ 手紙ではなく、お詫びの文章の検索に変更するのですか? オート さっさとやって頂戴 トワノ あなたには聞いておりません。コトハさん、変更して宜しいのですか? コトハ ……はい。よろしくお願いします トワノ ……畏まりました。  一同が見守る中、トワノが検索する。かなり時間がかかってから、検索が終了する。 トワノ 検索終了 フミコ・オート・オサム どうですか?/ どうなの? /どうなんだ? トワノ ……1件がヒットしました フミコ・オサム よかった!/ よっしゃ! オート 早速取り寄せて頂戴 トワノ あなたに決定権はありません。いいのですか、コトハさん? オサム いいに決まってるじゃねーか トワノ 何度もいいますが、本人以外に決定権はありません。宜しいのですか? コトハ あの……私……  コトハの言葉を遮るように、警戒アラームが鳴り響く。(照明、赤く点滅を繰り返す) コトハ ま、またお客さんですか!? トワノ いいえ、違います。不法侵入者です。ワーム、警戒態勢!  ワームたち、返事をしながら手に棒や盾(フランスパンや鍋蓋などでも良し)を持って現われる ラット (声だけ)はーっはっはっはっは! ボンジョルノー、皆様方!! ご機嫌いかがかな? フミコ だ、誰なの!? オート どこにいるの!? オサム 姿を見せやがれ! ラット (声だけ)はっはっは……いいだろう。ここだ!  笑い声にあわせて、照明が元に戻り、警戒アラームが消える。  ラット、客席から笑いながら現われる(舞台でもよし) ラット 言葉……それは神が人に与えた芸術。言葉……それは紙の上に現れる幻。     そして本とは、人の心を惑わせ、震わせ、引きつけ、突き落とす魔性の存在。     なんとトレビアーン! そしてワーンダーフォー! さらにハーラショー! コトハ 誰ですか? ラット ご挨拶が遅れて申し訳ない。私の名はラット……しがない怪盗である コトハ 怪盗? トワノ 怪盗ラットです コトハ 知ってるんですか? トワノ はい。図書館に不法侵入しては本を盗んでいく犯罪者です ラット 盗んでなどいない。無断で永遠に借りているだけだ オート それを盗んでいるっていうのよ! オサム むしろ、自分から怪盗って名乗ってるだろう!? ラット ミーはおフランス生まれなので、日本語はわっかりませーん コトハ 図書館の中なら、日本語もフランス語に聞こえてるんですよね? ラット ほう……昔の人間の割りには、賢いな コトハ じゃぁあなたは未来人なんですか? ラット ザッツラーイト! 君たちの科学など足元にも及ばぬ時代……西暦2900年からやってきた コトハ 怪盗なのにちゃんと名乗るんですね ラット ジェントルは礼儀を忘れない コトハ 道徳も忘れないで下さい ラット 細かいことはさておき、今回の獲物は……ドゥルルルルルル……ジャン!     (メモを取り出す)時は2008年。タイトルは無し。作者は……トモコという少女 コトハ え? ラット どうやらトモコという少女が、引越しをする友達、コトハという少女に宛てた手紙らしい コトハ ま、待って! ラット 何秒だね!? 1秒か、3秒か! コトハ え、さ、3秒? ラット 3、2、1、0!  照明、暗転(または逆光など)する。 ラット アデュー!(逃走)  照明元に戻る。 コトハ あー! オート おバカ! コトハ ご、ごめんなさい フミコ そんなことよりも、トワノさん! トワノ 分かってます。ワームたち、ラットを追ってください ワームたち あいさー!!  ワームたち、ラットの後を追っていなくなる。 フミコ ど、どうしましょう、このままじゃ オサム 大丈夫だって。手紙なんかなくっても、どうってことねーよ コトハ な、なんでですか? オサム もう謝罪の文章は見つかってるんだぜ? それを持ってくれば、全部解決だろ? フミコ あ……そうですね。確かにそれなら手紙はいらないですね トワノ どうやら、そうもいかないようですよ コトハ え? トワノ たった今、ヒットしていた仲直りの文章がロストしました オート ロストしたってことは……消えたの? オサム まさか、ラットに盗まれたのか!? トワノ 半分は正解ですが、半分は間違いです。     正確にいえば、ラットに手紙を盗まれたことで未来が変わったのでしょう オート どういうこと? トワノ (手近な本を手にとって)本を作るには作者が必要です。ですが作者がいなかったら? コトハ 本はできない…… フミコ でも謝罪文の作者は……コトハちゃんは消えてないですよね? トワノ 確かに。ですが、本を読まずに感想文を書ける人がいますか? オサム ……そういうことか! コトハ ど、どういうことですか? オサム 作者は、自分が経験したこと、感じたことを文章にすんだ。     でも今、ラットが手紙を盗んだことで、コトハちゃんが手紙を読むことができなくなった     だから、手紙の感想文……返事がかけなくなったんだ オート コトハが謝罪文を書くには、ラットが盗んだ手紙を読むことが必要だったってこと? トワノ おそらくは コトハ じゃぁこのままだと…… フミコ 仲直りできないってこと?  コトハ、思わず走り出し、ラットを探しに行く オサム コトハちゃん!? オート お待ちなさい!! フミコ わ、私たちもいかないと トワノ いけません オサム なんでだよ、コトハちゃん1人になっちまうだろ! トワノ えぇ、それでいいんです オート いいわけないでしょう!? フミコ トワノさんはいいです。私たちだけでも行きましょう! オサム おう! トワノ いけません! ワーム、3人を捕まえてください! ワームたち あいさー!(現れ、3人を取り抑える) オート 何のつもり!? フミコ ど、どういうことですか!? オサム トワノちゃん!? トワノ 詳しい理由を話している時間はありませんが、あなたたちがいると面倒なことになるので……     強引で申し訳ありませんが、別室でお待ち下さい。ワーム、丁重なおもてなしを。     私は他にやることがありますので ワームたち あいさー!  3人、わめきながらもワームに連れられていなくなる  トワノ、それを見送ると、マイク(やインカム)のスイッチを入れ、話始める トワノ 聞こえますか、コトハさん……はい、私です。     今からラットの位置を割り出し、コトハさんを誘導しますので、     アナウンスに従ってください。     他の皆さんですか? ……ついさっき、ラットの手下にやられ、気を失っています。     ですから、コトハさん1人だけでになりますが……     かしこまりました。まずは最初の曲がり角を……  トワノ、セリフを続けながらいなくなる。 ACT3  場面、夢幻図書館屋上。  ラット、トモコの手紙を読みながら現れ、脱出口に消えようとする。  コトハ、大急ぎで屋上に現れる コトハ 待って! 待って!! ラット 何秒だね? コトハ い、いっぱい!! ラット ……いいだろう、ここまで1人でやってきた努力を称え、少し相手をしてあげよう     で、何のご用かな? コトハ (ラットが手紙を手にしているのに気づいて)……手紙……読んだんですか? ラット あぁ……読んだ。実にスバラシイ文章だった コトハ なら……もういいですよね……返してください ラット 断る コトハ どうしてですか? あなたにトモちゃんの手紙は関係ないのに…… ラット 関係はない。だが興味はある。なぜなら、この手紙には、たくさんの言葉が詰まっている コトハ 他の本でもいいじゃないですか! ラット いいやダメだ。有名な作家が書いた一万ページの本ですら、この手紙の魅力には敵わない コトハ 普通の手紙じゃないですか…… ラット 違うな。これは世界にただ1つ、トモコという少女がコトハという親友に綴った特別な手紙だ コトハ あなたにとっては知らない人同士の手紙じゃないですか! ラット 確かに、私は何も知らない。     どんな言葉を交わしているのか、どんな時間を過ごしてきたのか、     どんな体験を共有してきたのか、何1つとして分からない。     が……知らなくても伝わってくる、スバラシイ手紙だ!! コトハ そんなの分かってます! ラット なんで分かるのだね? 読んでいないのだろう? コトハ 読まなくったって分かります! ラット だから、なんでだね? コトハ トモちゃんも引っ越してきたから……オオサカから、私の学校に来たんです。     知ってる子なんて誰もいないところに来て、仲良くなって、なのに今度は私が……     だから、引越しする人のことも、引越しされる人のこともどっちも知ってる子なんです! そんなトモちゃんが一生懸命書いたんだもん! 読まなくたって、すごいのは知ってます! ラット ならば、なぜ破った! コトハ 私じゃない! ラット 止めなかったんだろう? なら同じだ! コトハ 違うもん! ラット 止められたはずだ。なのに止めなかった! どれだけの価値があるか分かっていながら、何もしなかった。何も言わなかった! コトハ だ、だって……だって…… ラット ……嫌われたくなかったのだろう? コトハ え? ラット 誰からも嫌われたくない。だから何も言わない。だから何もしない。 コトハ ち、ちが ラット いいや、違わない! 私は全て見ていたよ。 キミが早く検索をしたいのに、他の人間に譲っているのを あれは優しさじゃない。ただ弱いだけだ。ただ嫌われたくないだけだ。 コトハ だ、だって……だって…… ラット だってなんだね? コトハ だって……ダメなんですか!? 嫌われたくないって思うのだめなんですか!? 嫌なやつって思われたくない! 嫌われたくなんてない! それのどこが悪いんですか!? ラット いいや、別に悪くない。人間なら普通の考えだ コトハ なら! ラット だがそのせいで……君は、本当に好きな相手に嫌われる コトハ …… ラット こうしている間にも、トモコは悲しんでいるだろう。     手紙が勝手に読まれているのに、親友は何も言ってくれなかった。     本当は追ってきて欲しかったのに、来てくれなかった。     もう2度と合わないかもしれないのに来てくれなかった。そしてそのまま、お別れか コトハ それはあなたが手紙を盗んだからだ! ラット いいや、違う。全て自分のせいだ。はっきり言わない自分のせいだ コトハ 違うもん! 違うもん! ラット なら、この手紙を見てどうするというのだ? コトハ え? ラット この手紙を取り返し、これを見てどうする?     実際には、手紙は破れている。破れた手紙の内容を知ってどうする?     読んでトモコになんというのだ? コトハ それは……だから、ごめんねって…… ラット ごめんといって、許してもらえたのかな? コトハ それは…… ラット 目的を間違えてはいけない。キミは何をしたいんだ? なぜこの図書館にやってきた?     本当に求めている文章はなんだ? 本当にトモコに届けたい言葉は……思いはなんなんだね! コトハ 私が届けたい思い……  オサム、オートリー、フミコがワームを突き飛ばして(引きずって)やってくる。 フミコ コトハちゃん! オサム 大丈夫か!? オート よくもやってくれましたわね! コトハ みなさん、無事なんですか!? オサム おう、見てのとおりよ! コトハ よかった……気を失ったってきいたから…… オート は? なんのこと? コトハ えっ、トワノさんが、ラットの仲間にやられたって…… オート 違うわよ! ワームたちに捕まえられてたのよ! オサム ここまでくんのにも邪魔されたしな コトハ ど、どういうことですか!? フミコ トワノさんが私たちを捕まえるようにいったのよ! オート そうよ、あいつも、そこにいる泥棒の仲間に違いないわ! コトハ え、で、でもここまでの道を教えてくれたのはトワノさんですよ!? オサム は? ありえねーって!! コトハ で、でも……じゃぁ、なんで……  照明がゆっくり変化し、図書館の閉館の音楽が聞こえてくる。 ラット 閉館の音楽……か。少々お喋りが過ぎたな(去ろうとする) コトハ 待って下さい! ラット ……何秒だね? コトハ ……少しだけ ラット いいだろう……少しだけ待とう コトハ ……その手紙 ラット この手紙? コトハ ……もういりません フミコ・オート・オサム えぇっ!? ラット ……どうしてだね? コトハ ……いらないからです ラット ……そうか コトハ そうです ラット わかった……では、こうしよう  ラット、手紙をビリビリに切り裂き、紙ふぶきにする。 フミコ・オート・オサム あぁっ!? ラット これで、元の世界にも夢幻図書館にも手紙はなくなった コトハ はい。大丈夫です フミコ 大丈夫じゃないでしょう!? オート そうよ! あれがないと謝罪文が書けないのよ!? オサム いったい何の為に必死に文章考えたんだよ! コトハ (フミコ・オートリー・オサムに向かって)ありがとうございました!! フミコ・オート・オサム コトハさん? / コトハ? / コトハちゃん? コトハ ありがとうございました……それと、ごめんなさい  やっと……分かったんです。本当に欲しかった文章 フミコ ……手紙じゃなかったの? コトハ 違います オサム 御詫びの文章だろ? コトハ それも違います オート じゃぁ、何なの? コトハ それは  世界が支離滅裂な様子(照明が色々変化したり、奇妙なBGMやSEなどが慌しく入る)に変わる。  ドアが出てきて、ワームたちが来客をドアの中に放り込み、元の世界に戻していく。 オサム ちょ、まっ!?(ドアに消える) オート まだ話しがおわって(ドアに消える) フミコ コトハさ!(ドアに消える) コトハ ……ありがとうございました。ラットさん……ううん、ムゲンさん     それと、トワノさんも  ラット、扉の裏に入り、出てくるとムゲンの姿に。トワノもやってくる。 コトハ 気付かせるために、2人でやってくれたんですよね? ムゲン ばれてましたか コトハ いえ……ついさっき気付いただけです トワノ よかったですね、みつかって コトハ はい。でも、フミコさんたちには悪いことしちゃって…… ムゲン 大丈夫です。今度いらしたときにきちんとお話しておきます     皆さんあれで人のいいかたたちですから、分かって頂けますよ トワノ それでは、閉館時間を迎えましたので ムゲン ……いってらっしゃい コトハ はい! いってきます! ムゲン・トワノ またのご来館を……お待ちしております  ムゲン・トワノがお辞儀をしていると、コトハが扉に飲みこまれる。 ACT5  トモコが1人でいると、コトハが走ってやってくる。 コトハ ……トモちゃん! トモコ ……コトハ コトハ ごめん、遅くなっちゃった トモコ ……なんや用か? コトハ うん。あのね、言いたいことがあったんだ トモコ 手紙のことなら気にせんでええで。コトハが謝ることとちゃう コトハ それじゃないんだ トモコ ……違うんか? コトハ うん トモコ ……なんや? コトハ バイバイじゃなきゃダメ? トモコ は? コトハ 私は……さようならしたくない トモコ せやかて、引越したら…… コトハ 引越しても電話できるよ、手紙送れるよ。     また明日……は無理かもしれないけど、会おうと思えば会えるよ だからバイバイじゃない。ずっとバイバイじゃない。 だから……さよならなんて言わないで…… 私たちは、ずっと友達……そうでしょ? ね、そうでしょ? トモコ ……ちゃうな コトハ え…… トモコ 友達やない……親友やろ? コトハ ……そうだね トモコ そうやろ? コトハ そうだね! トモコ そうやろ! コトハ そうだね! トモコ そうや……うちらはずっと親友や! コトハ うん、そうだよ、そうだよね! トモコ まぁ、会えなくなるんは寂しいけどな コトハ ……あっ トモコ どうしたんや? コトハ いいこと思いついた!! トモコ なんや、いうてみい? コトハ トモちゃん、この前無くしたマンガあったでしょ!? あれまだ欲しいよね!? トモコ せやなぁ…… コトハ じゃぁね、もっと強く欲しいって願ってみて! トモコ はぁ? コトハ いいから、ほら、やって!! トモコ ん、んー……こうか?  世界が支離滅裂な様子(照明が色々変化したり、奇妙なBGMやSEなどが慌しく入る)に変わる。 トモコ な、なななななんやこれ!? コトハ 夢幻図書館に入る時の合図だよ トモコ 夢幻図書館!? コトハ そ、とっても楽しい人たちが集まる、ステキなところ トモコ ほんまか? コトハ ちょっとおかしな人が多いけど トモコ そりゃ楽しそうやな コトハ うん、とっても! トモコ ……これからもよろしゅう、コトハ! コトハ こちらこそ、トモちゃん!  2人、現れた夢幻図書館に入っていく。他のキャストも全員出てくる。 ムゲン さぁ、みなさん、準備はいいですね? 全員  いえっさー! トワノ 座標軸固定。ゲート、開きます ムゲン 参りますよ……夢幻図書館! 全員  開館!! END