『ブラック・モンスター』     作・正 嘉昭 -------------------------------------------------------------------------------- 【登場人物】  坂本 真奈  田崎 千里  本間  操  北村 友一  桜井  具  申井 隼人  先生 --------------------------------------------------------------------------------            I     ある学園中等部二年の教室。     始業前。クラシック音楽が流れ、朝の放送が流れる。 アナウンス 皆さんお早うございます。ただいま八時二五分です。こ     れより早朝自習の時間です。各教室に入り、自分の席に着い     て自習を始めましょう。今日も健やかですがすがしい一日を     過ごすために校則をきちんと守りましょう。十一月二日の担     当は〇年□組××でした。音楽は××でお送りしました。で     は今日も良き日でありますよう、ご機嫌よろしゅう。 友 一 あーあ、この学校は何で自習ばかりなんだろう。つまんねえ。 隼 人 校則十八条、自ら進んで勉学にいそしむこと。そのため早朝     自習、朝自習、昼自習、帰り自習を行う。 友 一 最近ばかばかしくてよ。 晃   そんなこといってたらまたあの化け物にガツンと… 操   あっ、まだ傷消えないの? 友 一 −−−−うん…見てみる?(傷を見せる) 操・晃 えっ!こんなにあざができるの? 千 里 静かにしてくださいな。早朝自習中ですのよ。 友 一 なんだよ、このプリ−−−(晃に口を押さえられる) 晃   (小声で)また化け物行きになりたくないでしょう!(手を     離す)     千里が放送で呼ばれる、出て行く。 操   ふう、落ち着くわ、あの人がいないと… 友 一 すぐに先生にチクるし。 晃   だから友達がいないんですよ。 操   大っ嫌いよ、あんな人!友一のことも先生にチクって。 晃   落ち着いて、落ち着いて。     千里、真奈を連れて来る。みんなあわてて自習を始める。 友 一 誰、あの子! 晃   すごい格好。 隼 人 汚らわしい。 千 里 この方は、坂本真奈さんとおっしゃいます。今日からこの教     室でご一緒に過ごすことになりました。えーと、席は、北村     君の後で…     真奈、席に着く。 友 一 ウッス! 操   友一ったら。 裏 奈 ウッス! 操   えっ。 友 一 (笑う) こいつ、乗りがいいぜ。最高!よろしくな。 真 奈 おう。 操   (やきもちをやく)友一、自習でしょ。 友 一 何だよ。     浅田先生、入って来る。 千 里 起立!気を付け!礼! みんな お早うございます。 千 里 着席! 先 生 お早う!朝学活の前に田崎さんにお願いがあります。坂本さ     んはこの学園の決まりというものをよく知ってないらしいの。     そこで、あなた、学級委員ということで…ね、わかるでしょう。     それでは、今朝もチェックをします。中井隼人君、立って。     隼人、−立つ。 先 生 (指さし確認) ハンカチ、ちりがみ、髪形、ズボン、靴下、     靴。中井君、よろしい。     隼人、座る。 先 生 田崎千里さん、本間操さん、立ちなさい。     千里、操、立つ。 先 生 ハンカチ、ちりがみ、髪形、スカート、靴下、靴。田崎さん     よろしい。本間さん、衿が片方出ています。 真 奈 (小声で)ねえ、毎朝こんなふうにチェック入れるの? 友一 (小声で)一応ね。、 真 奈 (小声で)チェックの入れ方ベテランね。 先 生 何か? 真 奈  −−− 晃・友一 えっ?いえ、何でも。 先 生 それでは、北村友一君、桜井晃君。     千里、操、座り、晃、友一、立つ。 先 生 北村君、第一ボタン!それに立ち方が悪いです。あとで職員     室にきなさい。桜井君、ハンカチ、昨日と同じじゃない。ち     ゃんとしなさい。     晃、友一、座る。 先 生 それでは、坂本美奈さん。お立ちなさい。     真奈、立つ。 先 生 ハンカチ、ちりがみは? 真 奈 はい。(見せる) 先 生 ハンカチは無地のもの。髪形、ネクタイ、スカート、靴下、     靴。全部守れていません。本当にあなたという人は…校則の     本は、前に渡したでしょう?明日までにしっかり読んで改め     てきなさい。わかりましたか? 美 奈 読んではみます。(座る) 先 生 (何か言いかけるがやめる)ほかに連絡はありません。(疲     れた様子で出ていく)     真奈、先生の後ろ姿にアッカンベーをする。 晃   転入そうそうやってくれましたね。あなたは! 友 一 なあ、操。こういう奴がいるとヒマしなくていいよな。 操   名前は、坂…本さんだっけ? 真 奈 ピンポーン。真奈でいいよ、真奈で。 千 里 皆さん、お言葉使いをお気をつけてくださいな。朝自習をお     やりになったら。(真奈の前に立つ)坂本さん。 臭 素 だから美奈だって。坂本さんて言われるのは何か嫌なの! 千 里 しかし、校則ですから…! 隼 人 校則三三条、互いの人格を尊重するため、苗字で呼ぶこと。 真 奈 ふーん。仕方ないか、校則だもんね。 千 里 わかってもらえまして… 真 奈 −−−つて言うとでも思ってんの?!私は其奈、あんたは千     里。わかった?千里! 千 里 千里ってそんな…そ、それでは、先生のいない所だけですよ 操   ねえ、ねえ。あのおかたい田崎さんがたじってる。 晃   すごい人ですね。 千 里 まあ、それはそうとして、校則の本は? 真 奈 無い!! 千 里 (あきれて)読んでないようなので、私のものを貸してあげ     ます。今度は絶対なくさないでくださいよ。 真 奈 うわっ!校則が一二六条まであるの?千里これ覚えている     の? 千 里 この学校の生徒として当然ですわ。 真 奈 校則三条、給食の食べ方?こんなのまであるんだ… 隼 人 校則三条、給食の食べ方をここで具体的にお見せします。     みんな現われ席につき校則にそった食べ方をする。 隼 人 第一項。深く腰掛け、背筋を伸ばして。 みんな いただきます! 隼 人 第二項。食器の音、および話し声をいっさい立てない。…第     三項。食べ物から目を離さず、口を閉じて100回噛む。…第四     項。初めに牛乳少々次にパンをひとかけら、そしておかずを     一口。これをリズミカルに繰り返す。…第五項。一五分以内     で残さず食べ終わり… みんな ごちそうさま。(席を立つ) 隼 人 第六項。すぐ席を立たず、10分間じっと食休み。     みんな、あわてて席に着く。が、隼人の文句をいいながら消     える。 真 裏 ああ、まずそうな給食。あたしお弁当にしようっと。おかず     は… 千 里 坂本さん。 真 奈 えっ? 千 里 坂本さ… 美 奈 真奈! 千 里 真奈…は基本のこともできていません。髪はお下げかみつあ     み。ゴムは黒、リボンはいっさいだめ、ネクタイはきちんと     着用、靴下は足首から五cmのもの、通学靴は何も付けない。     こんなことは基本中の基本ですよ。 美 奈 (じっと千里を見る)ねえ、千里っていつもそういうしゃべ     り方してるの?変なの。千里と私、友連なんだよ!そういう     しゃべり方って変だよ。 千 里 友達?!わ、私は少々お手洗いに行ってくる、いえ、行ってま     いります。 友 一 なあ、真奈本気かよ、友達っていうの? 真 裏 うん、もちろん。 晃   すんごく疲れるよ。やめるなら今のうちですよ。 真 奈 何でやめんのよ。大丈夫だって。千里おもしろいし。 操   でもおもしろいじゃ彼女の友達はつとまらないわよ! 真 裏 私も便所行ってくる。友達が待ってるから。(出ていく) 操   ちょっと!私の話聞いてないわね! 友一 (笑う)最高!いいやつだぜ。な、操。 操   いかれてるわ。友一、自習ちゃんとやったら。(横を向く) 友 一 何だ、このアマ!何おこってんだよ。 晃   (友一を引っ張る)やきもちですよ。坂本さんも一応女です     よ。それなのに坂本さんの話題ばかり…女心が揺れてるんで     すよ。 友 一 そ、そんな、ひどい誤解! 晃   それにしても、田崎さんが友達だって。 友 一 友達ねえ。 隼 人 (ひとりごと)坂本か、チェックだ。          U     三日後の教室。英語の授業。 先 生 それでは、もう一度読みます。(英語を読む)     みんな、続いて読む。     チャイムがなる。 先 生 あら?まあ、いいいでしょう。次の時間はこのページのまと     めから入ります。それでは終りの礼を。 千 里 起立!気を付け!礼! みんな ありがとうございました。 千 里 着席!     先生、出て行く。 操   今日、真奈来なかったわね。 晃   どうしたんだろう。 千 里 皆さんも真奈のこと知ってらっしゃらないんですか?(心配     顔)どうしたんしょう?真奈おかしいよな。昨日はあんなに     ピンピンしてたのに。 隼 人 フフフ…     真奈が顔中ばんそうこうだらけで入ってくる。 千 里 どうしたんですの?!‥その傷は? 真 奈 何でもない。 隼 人 フフフ…ハハハ… みんな (隼人を見る)何か知ってるのか? 隼 人 いや。     先生、入って来る。 先 生 坂本さん。もう二度としないように気をつかってくださいね。     あなたのことが心配なの。それでは、終学活を始めます。校     則二三条、一日三時間以上勉強するでしたよね。その学習計     画実行表を出してください。     みんな、表を出す。 先 生 坂本さん、持ってきましたか?     美奈、そっぽをむく。 先 生 あなたは、また!この学校に来て一回も出してないじゃない。     一日に何回も職員室に呼ばれているような人だから今日みた     いなことになるんです。明日はちゃんと持ってくるんです     よ!終わります。(さっさと出ていく) 千 里 先生… 友 一 (美奈に)化け物にやられたんだろう、その傷? 真 奈 知らない。 晃   友一も同じなんですよ。敬語使わなくて… 真 奈 本当?…私も先生とすれちかった時にあいさつしなかったの。     化け物のところに連れていかれていきないりボコボコ。 千 里 ポコボコ? 真 奈 この学園にはそんな奴はいないとか、おまえそのものが気に     くわないとか、それでこのことを他の人に話したら今度はもっ     とひどいと思っておけだとさ。 晃   こわいですね。 操   ねえ、私、まだ化け物、ううん、管理教師というのがわから     ないんだけど、何? 千 里 私もよくは知りませんけど、いわゆる手に負えない方に特別     な罰を与える教師でしょうね。 隼 人 (突然)誰もその顔を見たことがない。生徒管理室にいつも     いて、ゴリラのように体中毛むくじゃら。拳の大きさといっ     たら、それは象の頭ぐらい。暗い中からいきなり拳が飛んで     くる。 真 奈 思い出したら、急に痛くなっちゃった。あー痛た、痛−い。     友一、急に泣き出す。 晃   友…一? 千 里 何泣いてんですの? 操   友…一、友一?もう知らない!なんで真奈のためになんか泣     くのよ!(飛び出していく) 友一 (涙をふく)気、つけろよ。それじゃ。(出て行く) 真 奈 えっ?ああ、バイバイ… 千 里 真奈、何だったんでしょうね、さっきのは? 真 奈 わかんない。 千 里 (急に)あっ、私、先生に呼ばれてんだわ。 真 裏 私のことでしょう?ごめんね…帰り待ってるね。 千 里 はい!(急いで出て行く) 晃   真奈。本間さ人と友一がつきあっていたこと知ってた? 真 奈 ふーん。 晃   あっ、このことは言わないで。校則五六条男女交際はいっさ     い認めずですから。 真 奈 あっ!校則!(校則の本を読み始める) 晃   ど、どうしたんですか? 真 奈 明日から、私、校則のテストなんだって。覚えていないと、     また管理教師行きだって… 晃   ひどいですね。がんばってください。 美 奈 うん。千里にも迷惑かけたくないし、ね。     帰りの放送が流れる。 晃   もうそろそろ帰ろうかな。校則七八条、三時下校だから気を     つけてくださいね。 真 奈 うん。サンキュウ! 隼 人 よし、帰る用意をするか。     操、入って来る。 真 奈 (本を開く)校則、二十一条、お手洗いの使い方?…第一項…     晃、帰る。 隼 人 よし。1分前。(さっと出ていく) 真 奈 ねえ、操、ごめんね。さっきのこと。 操   謝ってすむと思っているの?ふざけないでよ!泥棒。私が友     一と付き合ってるの知ってて、そうやったんでしょ。性格ブス。 真 奈 私、別にわざとかじゃなくて・‥ 操   うるさい!あんな田崎さんなんかと友達になっちゃって下心     みえみえよね。 真 奈 言わせておけば、何いってんのよ。わざとじゃないっていっ     てんだろ。性格ブスはあんただろ。千里の悪口いうんじゃな     いよ。あんたよりずーっといいよ。 操   よくも言ったわね。(真奈をたたく) 真 奈 なにすんの?!ブリッコ。調子いいやつって大嫌いなのよね。 操   いいかげんな人よりずっといいわよ。田崎の友達なんてふざ     けてるとあなたまで友遠いなくなるわね。(真奈をたたく) 真 奈 最低!この場にいない人の悪口言わないでよ。(鞄を持って     出て行く) 操   (座り込む)信じられない…     千里が走って入ってくる。 千 里 (帰る用意をしながら)本間さん、どうしたのですか?…あ     れっ?真奈、どうかしたのですか?さっき急いで帰っていっ     たけど… 操   知らないわよ、そんなこと!!     自動車の急停止音。ぶつかる音。真奈の叫び声。 千 里 も、もしかして…真奈?! 操   えっ?!     溶暗。     救急車のサイレン、近づく。         II     教室。真奈の机の上には花。先生が入ってくる。 隼 人 お早うございます、先生。 先 生 (千里を制止して)坂本さんは昨日の午後三時五分、校門を     出た所で車にはねられ病院に運ばれましたが、残念なことに     その日の夜、息を引き取りました。しかし、下校時刻は、午     後三時五分、午後三時を五分も過ぎていました。     みんな下を向く。 先 生 皆さん、顔をあげて先生の話を聞きなさい。 千 里 先生、真奈を!真奈を!(泣き伏せる) 先 生 真奈?落ち着きなさいな、あなたらしくない。坂本さんで     しょ。坂本さんは五分も下校時刻を過ぎていたんです。皆さ     ん、校則を守らないとこういうことになるということを覚え     ておきなさい。 隼 人 (ぼそっと)あたりまえだな。 千 里 先生!悲しくないんですか? 先 生 あなたたちは校則をしっかり守って勉強していればいいんで     す。連絡をします。一時間目は臨時職員会議のため自習とな     ります。それから、本間さん、一時間目が終わったら職員室     に来なさい。わかっていますね。(出ていく)     みんな、先生に声をかける。 隼 人 先生、数学の自習しています。 友 一 ひでえ奴だぜ。人間かよ、本当に!こんなときに校則校則って。 晃   本当だよ。 千 里 なに考えてんでしょう。 操   私が…いけないんだ。私が… 友 一 何かあったのか? 操   私が殺したのも同じよ。(泣きじゃくる)     みんな顔を見合わせる。 千 里 あなたが?あなたが?何があったんです、真奈に何をしたん     です、聞かせてください。(操にくい下がる) 晃   (千里を押えて)落ち着けよ。別に操が悪いと決まったわけ     じゃないんだから。 千 里 私にとって真奈は大切な人でしたのに… 隼 人 自習中なのに何を騒いでいるのですか。 友 一 何だと!おまえ何が起きたかわかってんだろう! 晃   やめよう。こっちが不利ですよ。今、確かに自習時間なんで     すから。 友 一 ふざけやがって!       IV     先生が入ってくる。     みんな、席に着く。 先 生 田崎さん号令を! 千 里 (ぼーっとしている)は、はい。えーと… 先 生 田崎さん! 千 里 ああ。起立、礼、着席。     みんな気が抜けたように礼。 先 生 さきほどの臨時職員会議での結論を言います。坂本さんのよ     うな件が再発しないように、今まで以上に校則を厳しく守ら     なければいけなくなりました。 隼 人 そうそう。 友 一 何だって? 先 生 (友一を指して)違反をした場合には、すぐに生徒管理室に     行くことになりました。次の時間から即実施ですので、今の     うちに身なりを整えておきなさい!それと、中井君、先生と     一緒に学園長室に行きましょう。     先生、隼人をつれて出て行く。 晃   何ですか?!今のは… 友 一 隼人もかもよ。 操   このままじゃ、どんどん先生達の言いなりになっちゃう… 晃   ねえ、真奈のためにも僕らのためにも、校則を変えよう! 友一・操 校則を変える?(顔を見合わせる) 晃   うん! 千 里 真奈のため?私も協力しますわ!     隼人が戻って来て、そっと話を聞いている。 操   (隼人を見つける)びっくりした!何で連れていかれたの? 隼 人 えっ? 友 一 どこやられたんだ? 隼 人 あっ、ああ、ここ。(顔を押える) 友 一 何ともなってないぞ。 隼 人 ああ、ここ、ここ。(別なところを押さえる)い、痛い! 晃   中井も仲間だ。協力してくれるよな。校則変えるの。 隼 人 こ、校則を変える?!(けわしい顔つき)どうやって?! 友 一 そうだよ、どうやって変えるんだよ。 晃   うーん… 隼 人 詳しく聞きたいなあ。 晃   操、いい考えは? 操   ねえ、みんな、あの化け物のところへ行く勇気ある? みんな 化け物のところ?! 操   そう。そして校則を飽きるほど破るの。 千 里 そんなことしたら 晃   みんなどんどん化け物行き。 操   その通り。 晃   その通り、って… 千 里 わかりました!おもしろいです。やりましょう! 友 一 やろう。やっちまおう。 晃   やっちまおうって、意味がわかりません。 操   みんなが次から次へと化け物のところへ行くと、向こうもだ     んだん疲れてくるわよね。 晃   うん。 隼 人 愚かな… 千 里 管理教師が、困り果てて聞いてくる。「これはいったいどう     いうことなんだ?!」 友一痺れはてたところを、みんなでボコボコに袋叩き! 操   ポコボコにしたって何も変わらない。それよりも、そこで停     戦の条件として変えてほしい校則をこっちから出すのよ。 晃   うーん。いい考えです。     隼人、こっそりと出て行く。 千 里 考え方はすばらしいですが、うまくいくかどうか心配です。 晃   体力が持つかどうかの方が心配です。 友 一 体力は俺にまかせな。あとはみんなでぶつかっていけばさ…     それに、こっちには強い味方がついてんだ。 みんな えっ?ああ!(真奈の机を囲む)うん! 千 里 やりましょう。 友 一 千里はさ、やらないほうがいいじゃん? 千 里 私だってこうみえても…!! 友 一 そういうことじゃなくて、怒るなよ。ほら、千里はこの中で     一番先生からの情報が入るじゃん。だから千里はあくまで先     生の味方の振りをして今まで通り情報を取り入れる…どうか     なあ… みんな あったまいい! 友 一 そうかなあ…     先生と隼人はいってくる。 晃    (小声で)この時間からですね?     みんなうなずく。 千 里 起立!礼!着席!     みんな、おしゃべりを始め、起立をしない。 先 生 田崎さん、もう一度。 千 里 気をつけ!礼!      みんな、そのまま。 隼 人 うるさいなあ。 先 生 皆さん、授業です!! 操   (先生に)何なの? 晃   授業だって…か、勝手に、や、やれば!ああ言っちゃった…     みんな、おしゃべり。 先 生 北村君、桜井君、本間さん、管理教師行きです!! 友 一 んじゃ、いこうぜ。 みんな おお!     友一、操、晃、出て行く。続いて先生も。 隼 人 あーあ、なんて馬鹿な彼らだ。 千 里 真奈のためですもの、 隼 人 ふん。これくらいの校則で。     操、顔を押さえて戻ってくる。 千 里 大丈夫ですか? 操   平気、平気、大丈夫。 隼 人 強がって… 操   ? 千 里 ほっときましょう。     友一、晃、戻ってくる。 友 一 どさくさに紛れて、一発返してやったぜ。 晃   けっこう痛いですね。真奈はもっとひどかったんでしょうね。 千 里 真奈…ま…な、美奈ー!(大泣き) 操   私、真奈が、こんなにも大切な存在だとは、知らなかった… 真 奈 (声)ふーん、あたしも知らなかった。 友 一 はん?誰だよ、こんなときにふざけんなよ。     あたりが暗くなり、何かが弾ける音。明るくなると真奈が     立っている。 隼 人 うわあ!だれだ?! 美 奈 お久しぶり。元気してた? みんな 真奈!! 晃   真奈?本当に真奈ですか? 真 奈 そうよ。ほかの誰でもないわ。 隼 人 そんな、馬鹿な。 友 一 死んだんじゃないのか? 隼 人 こわいよー。 真 奈 いやーね。車に正面衝突よ。普通死ぬわよ。 隼 人 暗いよー。 千 里 では、どうしてここにいらっしゃるの? 隼 人 お化けだよー。 操   何の未練があって? 真 奈 み・れ・ん?たらたらよ、決まってるじゃん。一三よ一三、     すんなり成仏していられるもんですか!未練いっぱいよ!! 友 一 そんなにあるのか? 真 奈 当たり前よ。 操   (泣く)すっごく心配したんだから…良かった、幽霊でも出     てきてくれて…良かった… 真 奈 泣くんじゃんないわよ。ブスに涙は似合わないよ! 操   何いばってるのよ。みんな、すごく心配してたのに、何さ、     ブスはあなたでしょ。死んじゃって馬鹿の見本よね! 真 奈 いいかげんにしな。もとはあんたが悪いんだろう! 操   そんなことないもん。車にひかれるなんて、自己管理がなっ     てない証拠よ。 真 奈 ふーん。泣き虫の癖に強がっちゃって…放課後残したのは、      あんたでしょう? 操   あんたの方が残ったんでしょう?!     真奈と操、悪口を言い合う。友一と晃は隅で小さくなってい     る。     千里、止めようとするが弾き飛ばされてしばらく動かない。     友一、晃、かけ寄る。 千 里 うるさーい!あんたたちいいかげんにおし。聞いていればつ     まらないことでぐちゃぐちゃと。全部あたしが悪いんだあ!     何もかも!真奈が死んだのも、二人がけんかするのも、UF     Oが飛んでるのも、あたしが悪いんだあ!(操に倒れ込む。) 操   田崎さん?千里?! 千 里 (背伸びをする)どうしたんだ?みんなして何をジロジロみ     てんだよ! 隼 人 人が変わってる。 千 里 皆さん!へんてこりんな校則を今こそ吹っ飛ばそうではあり     ませんか!お互いを監視し、友情をぶち壊す校則をこの世か     ら無くそうではありませんか!     みんな、千里に声援を送る。 隼 人 あの、あのー!     先生が入ってくる。 先 生 何やっているんですか?! 千 里 皆さん!先生が困っていらっしゃるでしょう。     みんな、席に着く。あたり暗くなり、弾ける音がして、明る     くなると真奈がいない。 みんな 真奈がいない。 先 生 何を言っているんです。坂本さんはなくなったんです。最近     あなた達はおかしいわ。どうかしたんですか? みんな …… 先 生 黙ってたってわかりません。 操   実は みんな 操! 先 生 何ですか、本間さん。 操   …… 先 生 校則を変えようなどと考えるのは、校則を守れない、いい加     減な生活をしている人です。馬鹿なことはいますぐ止めなさ     い。いいですか。 晃   (小声で)どうしてばれたんでしょう? 友 一 (千里に)おまえチクったのか? 千 里 そんなことするわけないじゃありませんか。 先 生 静かに!あなた達中学生は、そんなこと考える前にやらなけ     ればならないことがたくさんあるはずです。一生懸命勉強し     てきちんとした生活をしていれば校則のことなど気にならな     いはずです。 先 生 坂本さんは校則を守らなかったからああなったんですよ。田     崎さんや中井君を見習ったらどうですか。二人は用事がある     ので、学園長室まで来なさい。     先生は千里と隼人をつれて急いで出ていく。 操   だれよ、ばらしたのは? 晃   千里かな。昔から先生にチクってましたから… 友 一 千里は連うって言ってたぜ。     あたり暗くなり、弾ける音。真奈がいる。 其 奈 (元気がない)くやしい!もう一歩のところで… みんな 真奈! 友 一 どこに消えてたんだ? 晃   いきなりいなくなっちゃって… 真 奈 あの化け物め。人間じゃない。 友 一 あいつのとこに行ってたのか? 美 奈 簡単にやっつけられると思ったのよ、私の幽霊術で…ところ     が術をかければかけるほど、どんどん固く膨れ上がって、最     後にはこっちが窒息しそうになっちゃった。 操   大丈夫?顔が蒼いわよ。 真 奈 もう、影が薄い? 晃   そういえば、足のあたりが何となく… 真 奈 やっぱり。そろそろお別れね、みんなとも。 友 一 何いってんだ真奈、幽霊なんだから顔が蒼いのも影が薄いの     も当たり前だろ。 真 奈 ううん。化け物との戦いでかなりのダメージ受けたんだ。     (ふらつく)ああ持ち悪い。 操   真奈、しっかりして。(抱きかかえようとするが、からだが     すり抜けてできない)真奈! みんな 真奈? 友 一 出てこいよ。ふざけてないでよ−! 操   私たちをおいていかないでください! みんな 真奈−!        V     3日後の教室。みんな、席に着いて動かない。朝の校内放送。 アナウンス お早うございます。これより早朝自習の時間です。誇り     ある学園の生徒として校則を完ぺきに守り、違反0を続けま     しょう。違反点0の人のみ、昼休みの遊びが許可されていま     す。〇月□日の担当は〇年×組の□口でした。音楽は××で     お送りしました。校則は私たちの生活を守るためにあります。     校則はすばらしい宝です。では、今日も良き日でありますよ     う、ご機嫌よろしゅう。     みんな、いっせいに客席へ向く。 みんな ああ、苦しい。 友 一 俺達は牢獄か病院にいるようだ。 操   あの校則を変える作戦が失敗してから、 みんな 私たちの心は鉄のように固く冷たいまま。 晃   校則は倍増し、 千 里 違反点制度ができ、 みんな 一日中テレビカメラで監視されている。 友 一 裏切り者の隼人は、 操   学園長の息子だったことがばれたため、 晃   いづらくなって転校し、 千 里 私たちの目を覚ましてくれてた真奈は、 みんな もういない。     みんな、また机に向かう。 友一 (小声)晃、転校するって本当か? 晃   うん。 友 一 おまえなあ!     テレビカメラのランプが点滅し、ブザーがなる。 操   (小声)テレビカメラのランプ点滅! 千 里 (カメラに向かう)えーと、それではただいまから、「校則     をしっかり守るために」の学級会を始めます。 友 一 はい! 千 里 北村君。 友 一 アノー校則を守るためにはどうしたらいいか?(小声で晃     に)おまえまで裏切るのか? 晃   はい。 千 里 桜井君。 晃   自覚が大切だと思います。(小声)もうノイローゼにかかっ     ているって医者から言われて、親が新しい学校を探してきた     んだ。 操   どこにいっても… 千 里 本間さん! 操   ああ、はい。 千 里 本間さん。 操   自覚も大切ですが、…えーと、えーと友達も大切だと思います。 友 一 何だ、それ。ランプつくぞ。     ランプ点滅、ブザー鳴る。 友 一 ほらみろ。 操   友一が言ったからよ。     ブザー激しく鳴る。 千 里 きちんとした意見を言ってください。 操   はい。自覚が一番大切です。(小声)どこに行っても同じ     だって。校則はあるんだから。 千 里 先生がまいりました。     入ってきたのは隼人。 みんな 隼人! 友 一 おまえって奴は!(飛びかかる)何だその面… 隼 人 化け物にやられたんだ。 友一 こいつ、俺達の手前、演技してんだ。 晃   転校したんじゃなかったの。 隼 人 転校?するわけないだろう。 晃   だって… 友 一 こいつの言ってることみんなでたらめだ。 隼 人 違う、信じてくれよ。 操   誰が信用できるのよ。     ランプが点滅するが、千里がうまくとりつくろう。 友 一 学園長の息子が、何で化け物にやられなければいけないんだ? 隼 人 あいつが狂い始めたんだ。 みんな 狂い始めた!? 隼 人 パパから頼まれて薬を飲ませにいったら…いつもいうことを     聞くあいつが…あいつを一緒に倒してくれ。…みんなと仲良     くできる自由な学校が…ほしい。でも学園長の息子というこ     とで、先生達からも期待されて…もういやだ! 千 里 でも全てが終わったのです。 友 一 待てよ。隼人がいれば何かできるかも知れない。     (隼人に)おまえ、本当に俺達の仲間か? 隼 人 うん。 友 一 それなら、次の時間、証拠を見せろ。 隼 人 それで、仲間にしてくれるかい? 友 一 ああ。なあ、みんな。 みんな うん。 友 一 演技だったら承知しないぞ。 隼 人 わかってる。     チャイムがなり、先生が入ってくる。 千 里 起立!気を付け!着席!     先生の厳しいチェックが始まる。物差しをもって、スカート     丈、前髪の長さ爪の長さを計る。隼人、服装をわざと乱す。 先 生 (驚く)ど、どうしたんです? 隼 人 早くチェックをしてくれ。 先 生 す、座って! 隼 人 いやだ、チェックしてくれ!    台地を揺るがす、ぶぎみな音。 モンスター チェックだ!校則を放るやつは誰だ?!…チェックだ! みんな な、何だ、あれは?     巨大なモンスターが背後に浮かび上がる。 みんな うわあ!モンスター!!     みんな、逃げ出そうとするが、戸が開かない。 モンスター チェック!チェック!そこの坊主! 晃   恐いよ!僕じゃない! 友 一 俺じゃない!隼人だ! 隼 人 えっ?何で門 モンスター おまえだ。耳に髪。服三か所汚れ。ズボン太い。 隼 人 太くないよ! モンスター 靴下が黄ばんでいる。次、そこのツーピース!     みんな、先生を指さす。 先 生 わ、私は教師です。 モンスター うるさい!何だその私服。口紅、イヤリング、不良度12     違反点30! 先 生 生徒ではありません。どんな服装でもいいのです。口紅だっ     て、イヤリングだって、ストッキングだって…こう見えても     立派な大人です! 隼 人 狂ってるんです、先生。気を付けて! モンスター 違反する奴らには罰を与える。えい!やあ!とう!     みんな、倒れる。 真 奈 (ボーッとあらわれる)そんなにチェックしたかったら、な     ぐりたかったら、あたしをやりな! モンスター チェ、チェック不能。 みんな (顔を起こす)真奈! 真 素 負けちゃだめ! みんな 真奈! 真 奈 あきらめちゃだめ! モンスター子、小娘、反抗的。不良度 100、違反点 500、2000、0。     ば、ば、ば、罰だ!え、えい! 美 奈 そのパンチ、あたしには通じないわ! モンスター な、何だ。うっ、こ、小娘、即退学! 真 奈 みんな、もう一息。モンスターの生命力はそこをついてき     た…私…も…が、がんばって!…心を一つに…すれば…(消     える) みんな 真奈!真奈! モンスター 校則を変えるなんて生意気な!うううううう、たあ!     みんなつりあげられて床に叩きつけられる。 モンスター 学校はわしのもの。わしこそ校則だ! 晃   痛い!恐い! 友 一 おーい、みんな! 千 里 もう、嫌です… 隼 人 もう、アウト… 操   と、友一。 真 奈 (清らかな声)モンスターは、みんなの心を縛っている妖怪。     その妖怪に打ち勝つには… みんな (顔を起こす)う・ち・か・つ・に・は…? 真 奈 一人一人がNOという意思をはっっり持つこと。そして… みんな (体を起こす)そ・し・て…何なの?真奈! 真 奈 そして…みんなが一つになって、きっぱりとモンスターに言     うこと。「いやだ!」って。     みんな、手を伸ばし、つなぎ合い、立ち上がり、モンスター     に立ちむかう。 みんな 負けたくない。ここは…私たちの…私たちの学校!!     五人が発光する。       VI アナウンス (明るく)…これで朝の放送を終わります。音楽は○○     でした。     教室。明るい笑顔が。操が入ってくる。 みんな (元気よく)お早う! 操   (考え事をしている)お早う! 千 里 どうしたんです?元気ないみたい。風邪? 操   ううん。 友 一 どうしたんだよ? 晃   先生呼んできますか? 操   違うの。あのね、職員室に…真奈がいたの。 友 一 真奈?真奈だって。     みんな、笑う。 隼 人 (突然)やっぱり美奈だったのか… 友 一 いいかげんにしろよ! みんな バ力みたい!     先生が入ってくる。 千 里 起立!気を付け!礼! みんな お早うございます。 先 生 お早う! 千 里 着席!     みんな、立ち上がり、ハンカチとちり紙をさしだす。 先 生 皆さん、今日からチェックはありません! みんな えっ?わあー!やったー! 先 生 それだけではありません。今までの校則をすべて変えること     になりました。 みんな わあー!やった!やった! 先 生 あの化け物が、いや何かが狂っていたのです。先生も目が覚     めました。     まず来月の生徒総会に向けての学級討議を今日から始めます。     どんな校則が必要か、どんな校則はいらないか…みんなで考     えてみましょう。 晃   僕は給食の食べ方を自由にしたい。 友 一 おまえは好き嫌いが多いからな。     みんな、笑う。 友 一 俺は全部無くすのに賛成。 千 里 全く無くなるとメチャクチャになってしまいそうです。 操   私は男女交際は認めてほしい。 隼 人 僕は今のままで平気だけど。 みんな どうして? 隼 人 破ったことないから。     みんな、がやがやと話す。 先 生 皆さん、素敵な話がもう一つあります。皆さんに新しい仲間     を紹介します…入って来なさい…遠慮しないで。     黒いマントに黒い面をつけた少女が姿を現す。 先 生 な、何ですか、その格好は?! みんな 先生… 真 奈 (不気味な笑い声)チェックだ! みんな も、モンスター?! 先 生 だ、誰ですか?! みんな 先生?! 真 奈 (マントと面を取る)みんな、元気してた?! みんな ま…な? 先 生 びっくりさせないで、あなた。皆さん、転入生です。 みんな 似てる! 真 奈 良かったね、みんな。こいつをたたくことができて(マント     と面を踏みつける) みんな 声もそっくり! 真 奈 あっ、そう言えば千里、ずっと前に借りた校則の本(千里に渡す) 千 里 あっ、これは確かに私の本です。 隼 人 これは絶対本物だ。 真 奈 私ね…あの化け物のエネルギー吸収しちゃって生き返ったみ     たいなんだ。 みんな 真奈だ!(駆け寄る) 千 里 (泣きながら)坂本さん! 真 奈 ストップ!新校則1条、互いの人格を尊重し、きちんと名前     かニックネームで呼ぶこと。 千 里 だって坂本さん…(泣く) 真 奈 千里の…校則違反! みんな 真奈!(笑う)                − 幕 −