『鬼平あらわる!』 作・神谷 政洋 ───────────────────────────────────────────── 【登場人物】  マコト  (内弁慶の少年)  鬼平  (長谷川平蔵・火付け盗賊改め方の隊長・ものすごく強い)  母「ヨシエ」(マコトの母親・ちょっと変)  不良A  (マコトからお金を巻き上げようとしている)    B  (Aと同じ)    C  (Bと同じ・ということはAと同じ)  男  (不道徳な大人)  少年  (不道徳な少年)  警察官  (優しい警察官) おばあさん(田舎から出てきたおばあさん) 黒子 数名(鬼平とマコト以外、全員で行う。シーンを考え交代でやると良い。) ───────────────────────────────────────────── 第一場 幕前(セットなし中央スポットライトのみ ) 押し出されるようにマコト現れる 不良グループ続いて現れる 前からも現れ、行き場が無くなり追いつめられるマコト 不良A おい、金はどうしたんだよ? マコト 金なんか・・無いよ・・・ 不良B なんだと!それですむと思ってんのかよー! マコト だって・・この前、今月の小遣い渡したから・・・ 不良C だから無いって言うのか? マコト うん・・・ 不良B 無きゃーカツアゲでも何でもして持ってこい! マコト そんな・・・ 不良A こいつにそんな度胸ある訳ねえだろ。なあ? マコト うん・・・ 不良A だったらよー!親の財布からでも盗ってこいよ! 不良C いいか!明日の2時に、この場所に金持って来いよ! 不良B 誰かにチクったらただじゃすまねえと思え!  去っていく不良達。一人たたずむマコト 幕が上がる 第二場 マコトの部屋(セットは机と椅子、それから押し入れ) 照明は通常  マコト机に向かい悩む マコト どうしよう? 上手より母が現れる 母 マー・コー・ト・・・何やっているのよ? マコト 何でもないよ 勝手に入らないでよ 母 いいじゃないの、親子なんだから マコト プライバシーの侵害だよ 母 そんなのどうでも良いから、ほら、この雑誌の占い見て。マコトの運勢良いって書い てあるよ。よく当たるんだから、この占い。 マコト こんなの当たるわけ無いだろまったく・・・ 母 良い事書いてあるとうれしいじゃないの。気分良くなるように持ってきたのよ。 それから、そろそろマコトの好きな時代劇始まるよ。 マコト 時代劇なんて好きじゃねえよ 母 そうなの?いつも鬼平犯科帳の再放送、観てるじゃない? マコト 別に、ほかに観る物無いから、観てただけだよ。 母 あらそう?私は結構好きなんだけどね。だって、鬼平役の俳優さんかっこいいんだも ん。ねーマコトもそう思わない? マコト はいはい分かったから、あっち行ってよ 母 じゃあ、私一人で観るからね、気が向いたらおいでよ でていく母 また悩む。しばらくして母の持ってきた雑誌を見る。 マコト 今日の運勢・・・大吉かー・・・願い事かなう・・・待ち人来たる・・・ ふん!こんなの当たるわけねえよ・・・ 願い事かなうだってよ?・・・へっ鬼平みたいなのが現れて、あいつらを退治してく れるとでもいうのかよ!・・・こんな嘘ばっか書きやがって・・・ 鬼平犯科帳のテーマとともに、押入の扉が突然開き、鬼平が現れる。 鬼平 拙者を呼んだのは、お主か? マコト うわー!だだだだだ・・・誰だー? 鬼平 火付盗賊改方(ひつけとうぞくあらためかた)、長谷川平蔵(はせがわへいぞう)であ る。賊(ぞく)は何処にいる? マコト ぞ・・・賊って?・・・あんた・・・鬼平? 鬼平 そうじゃが・・・ん?誰もおらぬな?(陣笠をとる) マコト おっ・・おかーさん! 母 どうしたのよ?大きな声出して? 母 キャー!(鬼平を指さす) 母 ステキ! ずっこけるマコト。明転 照明はそのまま 音楽と共に下手から黒子数名、中割り幕を引き、ストップモーションのままの三人は中割り幕の  後にかくれる形になる。黒子、ダンスのような動きで幕の前に座卓を用意する。 第三場 茶の間(セットは座卓のみ) 下手から現れ、鬼平中央、母右、マコト左の配置でゆっくり座る。黒子お茶を運ぶ。 音楽に合わせて、お茶を三人でグッと飲む。 鬼平 ・・・と言うわけでござる。 母 そう・・・それって、タイムスリップって言うのかしらねー? まあ、良いじゃない? マコト い・・良いのかよ? 鬼平 世の中は、成るようにしか成らんこともござる。そのタイ・・・? 母 タイムスリップ 鬼平 そう、それがまた起きれば、戻れるのであろう。それまでは、こちらの世の中を見聞 (けんぶん)させて頂くつもりじゃ。 母 そうよね、お仕事大変なんでしょ?ゆっくりと楽しんでって下さいね、長谷川さま。 鬼平 長谷川さま?ずいぶん堅苦しい呼び方じゃのう。 母 でも、時代劇ではみんなそう呼んでますけど・・・? 鬼平 ワシのことは、誰もそんな風には呼び申さぬ。 母 えっじゃあ、・・なんて呼んだらいいのか・・? タイミングを計り、マコトお茶を口に含む。 鬼平 申し遅れた。拙者、長谷川家当主、平蔵宣以(へいぞうのぶため)と申します。 親しい者からはノブちゃんと呼ばれております。  マコト母に向け、口から、お茶を吹き出す。 母 キャー汚い、何やってんのよ!マコト!  手元のタオルで拭く「後に殺陣があるため、きちんと拭くこと」(アドリブを入れ自由に演技) 母 すいません・・・かかりませんでしたか? 鬼平 いや、いささかシブキが・・・(または、大丈夫でござる・・・などアドリブ) マコト 何がノブちゃんだよ!気持ち悪いから鬼平で良いよ!(むせながら立ち上がる) 母 いいじゃないの、ねえノブちゃん 鬼平 はーい マコト やめようよ、その呼び方! 母 じゃあ、私の事はよっちゃんって呼んで。 鬼平 よっちゃん? 母 ヨシエっていいます。 鬼平 では、よっちゃん 母 はーい マコト もー、二人ともいい加減にしてよ! 母 そうだ、マコト、明日、町を案内してあげたら? マコト ええ?おれが? 母 ほかに誰がいるのよ?私は仕事なんだから。マコトは学校お休みでしょ。 マコト そうだけど・・・ 鬼平 では、よろしく。 マコト よろしくって、まさか、そんな格好でうろうろするつもりなの? 鬼平 別に汚い身なりはしておらんと思うが・・・。(立ち上がりクルリと回る)粗末かな? 母 いえ、ステキです 鬼平 はっはっは、ちょっと照れてしまうなー マコト ステキとかそう言う問題じゃないだろ?そんな服着てる奴なんか、どこにもいないよ。 何よりもそのチョンマゲは目立ちすぎるよ。 鬼平 そうなのか? 母 そうねー・・・でも個性的で良いじゃない? マコト 個性?個性の枠を思いっきりはみ出てるよ。 母 そうかしら? マコト そうだよ! 鬼平 では、どの様にしたら、良いでござるか? 母 そうだマコトの服とか帽子貸してあげたら? マコト ええ? 鬼平 それは、助かり申す マコト そんな・・・おじさんが着る服なんて持ってないよ 母 マコトの普段着で良いじゃないの? マコト もー!どうしよう・・・  暗転、音楽、中割り幕を開ける、マコトの部屋のセットは片づけてある。 第四場 路上 (セットなし)  上手よりマコト現れる。 マコト ほら、行くよ。  (鬼平現れる) 鬼平 何だかまとわりついて歩きにくいのー マコト ハカマより動きやすいよ。 鬼平 そうかな? マコト 何持ってんの?(鬼平の持つ大きな紙袋を見る) 鬼平 これか?脇差しでござる(誇らしげに・刀を抜いてみせる) マコト かっ、刀じゃないの!そんなモン置いて来てよー・・・ 鬼平 何を言うか?脇差しは武士のたしなみじゃ。殿中においても、手放さぬ、まさに武士 の魂。武士である限り、魂を忘れるわけにはいかぬ。(見得を切る) マコト わかったけど・・・そんなの見つかったら、警察に捕まっちゃうよ。 鬼平 どの様に言われてもこれだけは離すわけにいかぬのだ。(刀を納める) マコト もー・・・見つからないようにちゃんとしてよ! 鬼平 大丈夫でござる 下手から通りかかる男立ち止まり火のついたたばこをポイ捨て。 鬼平 オイ、貴様 男 は? 鬼平 火を投げ捨てるとは、ふとどきな奴!成敗してくれる 男 成敗ー? 鬼平刀を抜く 鬼平 そこへ直れー! 男 ひえー!・・か・・・刀(腰を抜かす) マコト ちょっちょっとちょっと鬼平!やめてよ! 鬼平 なぜじゃ?この者はふとどきにも、火のついた物を投げ捨ておった。このような事、 江戸の町で許される事ではない。 マコト 江戸って・・・この人も反省して・・・いるよね!(男を見る・男、大きくうなづく) ほら、反省しているから・・・二度としないよね! (男を見る・男、大きくうなづく) 鬼平 そうか、ここはマコト殿に免じて特別に許してやろう。オイ、オマエ! 男 はい 鬼平 その火のついた物をさっさと片づけよ! 男 ハイ!(あわてて片づける。熱いので少々火傷する演技) 鬼平 二度とやるなよ 男 ハイ!(ペコペコと謝り上手に逃げる) ママー!(絶叫) マコト たばこ捨てた位で刀なんか抜かないでよ 鬼平 え?あれはタバコなのか?なぜ、キセルを使わんのだ? マコト そうじゃなくて、刀の話! 鬼平 拙者の仕事は、火付け盗賊改め方。江戸の町では火付けや盗賊は民衆の財産を脅かす 最も罪の重い物なのだ。それを取り締まるのが、拙者のお役目でござる。 そして、今の者の行為は、火付けに値する。つまり死罪じゃ。 マコト 死罪って言うと・・・、まさか・・・死刑? 鬼平 そうじゃ マコト えー?タバコのポイ捨てが死刑なの? 鬼平 あたりまえだ。・・・この時代では違うのか? マコト だって、そんなのみんなやってるよ! 鬼平 何?みんなだと?長谷川平蔵、正義のために、そのような者達全員、打ち首にしてく れる。 マコト ちょっと、ちょっと、やめてよーそんなの捕まっちゃうよ 鬼平 何を申すか?正義を行って何が悪い? マコト この時代は、人殺しの方が罪が重いんだよー 鬼平 人殺しではない、成敗じゃ。 マコト 同じだよー・・・とにかくおとなしくしていてよー 鬼平 マコト殿がそう申すのであれば、仕方がない。郷に入りては郷に従えと言う言葉もあ り申す。 マコト 何それ? 鬼平 知らぬのか? マコト ああ、長くなりそうだからいい・・・  下手に歩いていく・音楽と共に黒子が現れダンス 明転(照明はそのまま) 第五場 本屋 (セット・無し) 音楽の終了と共に黒子は本を広げ、立ち読みの風景を作る。 下手より現れるマコトと鬼平。 マコト ここは、本屋。 鬼平 本くらい知っておるわい。 マコト 江戸にも本はあるの? 鬼平 もちろんじゃ、しかし・・・まあ、雅(みやび)な本ばかりじゃな マコト みやびって・・・ 鬼平 こ・・・これは! マコト 何だよ? 鬼平 うら若きオナゴが、このようなあられもない姿に・・・ マコト アー、水着だよ 鬼平 なんと、こちらにも! マコト 別に、珍しいもんじゃないよ 鬼平 そうなのか?・・・良き時代じゃ・・・(しみじみと) マコト 何かなー・・・単なるスケベ親父じゃないか・・・? 鬼平 む?あやつ不振な動きをしておる 上手からキョロキョロしながら少年現れる。万引きをし、下手に何食わぬ顔で去る。 マコト 万引きだよ 鬼平 万引き? マコト 本を盗んだんだよ 鬼平 なーにー?ぬすんだー?(歌舞伎風に) (少年を追いかける鬼平) マコト 鬼平!(後を追いかける)  音楽と共に黒子のダンス中央に草と格闘用の棒を持ってくる 明転(照明はそのまま) ─ ─ 第六場 広場 (草のセット)  下手より鬼平マコトの順で現れる。 マコト だめだよ鬼平 鬼平 何がじゃ? マコト 泣いてたじゃないか? 鬼平 ふん、子供でなければ打ち首にしていた所だ。 マコト 万引きぐらいであんなに殴らなくても 鬼平 殴られるのは当たり前であろう!人様の物に手を付けて、それが許される道理はござ らん。 マコト 万引きぐらい、みんなやってるよ・・・ 鬼平 みんな? マコト そうだよ 鬼平 マコト殿、まさか、お主もしておるのか? マコト 俺は・・・やってないけど・・・ 鬼平 では、みんなではござらぬ。 マコト そうだけど・・・ 鬼平 どうして、マコト殿は悪い事をした者にそんなに寛容なのじゃ? マコト どうしてって・・・ 鬼平 人としてやってはいけない事は、厳しく罰しても良いであろう。 マコト だけど、暴力はよくないよ・・・ 鬼平 確かに、暴力は、むやみやたらにふるって良い物ではござらん。しかし、先ほどの奴、 見ておるワシに向かって、証拠はあるのかと居直りおった。あのような子供は江戸の 町にはおらぬ。 ああいう輩(やから)は、性根をたたき直してやらねば、直らんのだ。 マコト でも、殴られたら、傷つくんだよ・・・ 鬼平 傷つく?・・・ハテ?・・血は出ておらんかったが? マコト そうじゃなくて!・・・心の話!・・・そう、心が傷つくんだよ・・・ 鬼平 心?・・・(充分間を空けて)傷つけば良いであろう。 マコト え? 鬼平 傷ついて、傷ついて、それでようやく、人の痛みが分かるようになるのだ。本を盗ら れた店の者は、ものすごい痛みなのだぞ、それが分からぬうちは、ドンドン傷つかね ばならぬ。 マコト 何か、言っている事、ムチャクチャだよ。 鬼平 さっきから、マコト殿の話を聞いておると、こちらの世界は、人間が皆、腐っておる のではないか? マコト 腐っているって? 鬼平 皆、自分だけが良ければそれで良いと思っているのか? マコト そりゃそうさ、自分が大切だもん 鬼平 もちろん、自分は大切じゃ。だがな、それだけで世の中は成り立たん。人のために生 きようとする者はおらぬのか? マコト そんな人、いるわけ無いよ・・・ あ、鬼平!隠れて! 鬼平 なんじゃ? マコト 警察だよ。 鬼平 警察? マコト 刀見つかったら捕まるんだよ。 二人草の後ろに隠れる。 上手より警察官おばあさんと現れる。 警察官 おばあちゃん、すぐそこですからね。 おばあさん どうもすみません、荷物まで持っていただいて。 警察官   いいんですよ、膝(ヒザ)は大丈夫ですか? おばあさん はい、ちょっとすりむいただけですから。 警察官 気を付けて下さいね。お怪我でもあれば、お孫さんも心配するでしょう。 おばあさん はい、ありがとうございます。お忙しいのにホントにすみません? 警察官   いいんですよ、お気になさらないで下さい。  警察官とおばあさん下手に去る。 鬼平 マコト殿ー、良い人間はおるではないかー (すがすがしく) マコト ふん、あれは、仕事だからやっているんだよ。 鬼平 彼は、人を捕らえる仕事ではないのか? マコト 警察官は、いろいろやるんだよ。大体今時、仕事でもなきゃ、知らない人に親切にな んかしないよ。 鬼平 そうなのか? マコト そうさ・・・ 鬼平 うーむ?しかし、彼は何故(なにゆえ)そのような仕事を選んだのじゃ? マコト え? 鬼平 人のためになる仕事を選んだということが素晴らしいのではないか? マコト それは・・・そうだけど・・・ 鬼平 そうじゃ、マコト殿も、彼のようになりなさい。 マコト ええ?おれが警察官に? 鬼平 そうじゃ、そして世直しをするのじゃ・・・ マコト 世直しって・・・  上手から不良グループ現れる 不良B おい、2時に来いって言ってたのに、何で来ねえんだよ? マコト わ・・・忘れてた・・・ 不良A 忘れてただとー? 鬼平 マコト殿、このもの達は友達であるか? 不良C 何だー?このジジイ、若ぶった格好しやがってよー 鬼平 ジジイ? 不良B おい、それより金持ってきたのかよ? マコト 金は・・・無いよ 不良B 何ー?それも忘れてたって言うのかー? 不良A 無かったら、どっかから盗んでこいやー! 鬼平 盗む?・・・ おい、その方、今盗みをそそのかしたな? 不良A あー?だから何だっつーんだよ?すっこんでろよジジイは!  不良A 鬼平に殴りかかる。 鬼平Aの腕をねじりあげる。 不良A イテテテ・・・ 鬼平 火付け盗賊改め方、長谷川平蔵である!お主達の行為は、許すわけにはいかん!鬼平、 天に代わって成敗いたす。 不良A なんだとー?おい、やっちまえ! 鬼平と不良の戦い。鬼平次々に不良達を殴り倒す。途中で帽子が落ちてチョンマゲが見えたら、  しっかりと反応して欲しい。 不良C このジジイ・・強えぞ 3人、棒を持ってくる。 不良B やい、ジジイ覚悟しろ! 鬼平 ほう、良い度胸だ・・(刀を抜く) 不良C か・・・刀だ 不良B へ!そんな偽モン、怖くねえぞ(ビビリながら鬼平に棒を向ける・帽子が落ちていな ければ、ここで帽子をとる)  鬼平、3本の棒を次々と切り落とす・棒の先が落ちる。 不良達 ほ・・・本物だー!(皆、腰を抜かす) 鬼平 お主達、命は惜しいか? 不良達 は・・・はい・・・ 鬼平 では、これから真っ当な生き方をするのじゃな? 不良B 真っ当? 鬼平 正しく生きるかと聞いておるのじゃ! 不良B は、はい!二度と悪い事はしません。 鬼平 他の者達は? 不良A・C はい、もうしません。 鬼平 では、特別に許そう。子供は国の宝じゃ、・・・(逃げ帰ろうとする不良達)  しかし!(びくっとして立ち止まる不良)お前らの悪事は、この鬼平が許さぬ。 いつでもワシが見ていると思えよ・・・ 不良達 はい!ありがとうございましたー!  礼をして上手に逃げていく不良達。 鬼平それを見ながら、刀を納める マコト すごいよ鬼平・・・ 鬼平 イヤ、大したことはござらん。それより、腹が減り申した。そろそろ帰らんか? マコト うん!  下手に歩いて去る(台詞はアドリブ)・音楽と共に黒子。中割り幕を引き、座卓を持ってくる  明転 照明はそのまま 第七場 茶の間 (セット・座卓のみ。黒子ご飯を用意) 鬼平 うん、よっちゃんの飯は、絶品じゃ 母 あら、うれしいわ、ノブちゃん。 マコト だから、やめようよ、その呼び方 鬼平 ところで、マコト殿の父上はいずこにいらっしゃるのだ? マコト ウチは、母子家庭だよ。 母 亡くなったんです 鬼平 それは、悪い事を聞き申した。申し訳ござらぬ。 母 いいんですよ。 マコト だいぶ前の話だからね。 母 事故だったんです・・・。 鬼平 それは、寂しいでござるのう・・・ マコト 別に、もう慣れたよ。 鬼平 そうか、よっちゃんは独り身にござるのか・・・ 母 ええ・・・  見つめ合う鬼平と母。 マコト 何か、二人の目つきが怪しい・・・ そんなことより、ねえ、鬼平は、どうやったら帰れるの。 鬼平 ワシにもワカラン 母 そういえば、マコトが大吉の時、願ったら現れたのよね? マコト うん・・・ 母 だったら、また大吉の時に、ノブちゃんが帰れるように願ったら? マコト そうか・・・でも・・・そんな馬鹿な・・・ 鬼平 馬鹿ではござらぬ。よっちゃんの言うことは、常にもっともじゃ マコト どこが、もっともなんだよー?(見つめ合う二人) また怪しい目つきしてるー・・・ 分かったよ、大吉の日っていつ来るんだよ。 母 あの雑誌、今日発売だから買ってきたわよ。  マコトあわてて雑誌をめくる。 マコト うーんと・・・俺の運勢・・・大吉!願い事かなう!いつだ?・・・明日だこの運 勢! 母 じゃあ、ノブちゃん。明日帰れるじゃない良かったわね。 鬼平 うむ・・・じゃが、よっちゃんと分かれるのは少々寂しい・・・ 母 あら(照れる・見つめ合う二人) マコト また見つめ合ってるー! チャイムの音 母 あら、誰かしら?こんな時間に? 席を立つ母 母 どちら様ですか?(上手に向かって) 警察官 警察ですが 暗転・座卓を片づける 第八場 玄関 (セット無し・上手スポットライトで夜の玄関外を表現)  スポットライト内に警察と母 母 何か? 警察官 いや、ちょっと通報がありまして、お宅の息子さんと一緒にいた男が、日本刀を振り 回して、暴れたとか・・・ 母 まー、日本刀? 警察官 心当たりはありますか? 母 さー? 警察官 息子さんはいらっしゃいますか? 母 マコトー マコト 何?(中央側よりマコト現れる) 警察官 昼間、男の人と一緒にいたかな? マコト ・・・はい・・・ 警察官 その人が日本刀を振り回したって言うんだけど本当かな? マコト えっ?・・・ 下手スポットライトが点く。草の陰から見ている不良達を映し出す 不良A   ざまあ見ろ、あのやろう、捕まりゃーいいんだ。 不良B  あいつ俺達が警察にチクらねえとでも思ってたのかよ。 不良C あのやろうが捕まったら、マコトのやつから、金またふんだくってやろうぜ 不良A 前よりたんまりとな・・・ 不良達 ハハハハハ 話の途中からゆっくりと鬼平現れ、不良達の首元にギラリと光る刀をつきつける。 不良達 ひー!(不良達、崩れ落ちるようにしゃがみ込む) 鬼平 おい、お主達も悪よのー・・・越後屋以上だ! 不良C ゆ、許して・・・ 鬼平 いつでもワシが見ているって言っただろ。 不良達 は、はい・・・ 鬼平 言っても分からねえ奴には、仕置きが必要だな 不良A 仕置き・・・? 鬼平 腕の1本も叩き斬ってやろうか!(刀を振りかぶる) 不良B おおおお、お許し下さい。もう二度と悪い事はしません・・(不良達、土下座) 鬼平   本当だろうな? 不良達 はい! 鬼平 では、今一度だけ、勘弁してやろう。 不良達 ありがとうございます。(さらに土下座) 鬼平 二度と悪い事はするんじゃねえぞ。 不良と鬼平去る。下手のスポット消す 警察官 分かりました。何かの間違いでしょう。今時、日本刀にちょんまげなんてねー・・・ 江戸時代じゃあるまいし 母 そうですよーホホホ 警察官 それじゃ、失礼いたします。何かありましたら、ご連絡下さい。 母 はーい。  上手スポット消 暗転・中央スポットライト点ける  マコト中央に出て、語りはじめる マコト 鬼平は、翌日帰っていった。なぜ帰れたかは、結局分からない。でも、鬼平が帰って から、何かが変わった。 俺に絡んでいた不良達も、俺がにらむと、悪い事をしなくなった。よほど鬼平が怖か ったんだろう。 俺も少しだけど変わった。みんな自分の事しか考えていないと思っていたけど、他人 のために生きている人って、結構沢山いた。今までその事に気がつかなかっただけだ った。 あれ以来、町で、タバコを捨てたり、ゴミを捨てたりするのを見ると、まだ、注意は 出来ないけど、拾って始末するようになった。 いつかは、俺も鬼平みたいに、悪い事は悪いって、ちゃんと言えるようになりたい。 そう、思い始めた・・・ 第九場 マコトの部屋(セットは二場と同じ。あらかじめ中割り幕の後に作っておく。)  中割り幕を開き始めると同時に、照明点灯。スポットライト消す。 マコト あーあ・・・あれから1ヶ月か・・・ 鬼平・・・どうしてるんだろうなー? 押し入れ開けたら、鬼平がいるなんて事は(押し入れ開ける・鬼平いる)あるわけ無 ・・・・いたー! 鬼平 やあ、元気か? マコト なっ・・何でいるんだよー? 鬼平 いやー、よっちゃんの飯が食べたくなってのー・・・まー、おみくじ引いてみたら大 吉だったんで、ちょっと願ってみたら・・・ マコト そんな・・・メチャクチャな・・・ 母 何さわいでんのよ? 鬼平 やあ、よっちゃん。 母 あらノブちゃん。(笑顔) (見つめ合う二人) マコト もー、どーなるんだよー!この先ー・・・?  全員ストップモーション。下手から黒子現われ、拍子木を打ち始める。  幕閉まるまで、幕前で拍子木を打ち続ける。完全に幕が閉まった後、一礼して下手にひっこむ