『キャッチボール』 作・福島康夫 −−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−− 【登場人物】 さやか  携帯電話に疑問を抱き、あれこれ悩む素直な中学三年生 葵 さやかの親友。 携帯電話を持っていなかったはずの女の子。 麻 子 さやかの親友。 携帯電話はもっていないが、実は欲しくて仕方がない。 実 和 携帯電話が手放せない、現代っ子。 しかし…。 なずな  実和のメール友達。 実和のことを親友だと思っている。 知 里 実和のメール友達。 明るく元気。 毎日を楽しく暮らしている。 人 形  さやかの部屋の人形 さやかの話し相手 稲 本  中田君の親友 みんなと同じクラス  姉   大事なときに相談にのってくれる、頼りになる姉 子供1 キャッチボールをしている謎の男の子 その1 子供2 キャッチボールをしている謎の男の子 その2 −−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−− │ │ 舞台中央にさやかが立っている。 そのまわりをその他の人物たちがすれ違いながら │ 携帯電話のメールで会話をしては過ぎ去っていく。 立ち止まるたびによびかけにこ      │ たえるが、見ようとはしない。 そんな友達たちを中央から見守っていた さやか…。      │ さやか │ちょっと待ってー! なんかおかしい!   暗 転 │ │  公園で一見楽しそうにしている3人の女子中学生 │ しかし3人とも向き合いながら、時折携帯でメールを打っている。 │  会話をしているが、誰も顔をあげないで適当に相づちをうつだけ。 │ なずな │ねえ、サッカー部の中田君のこと、どうなった? 知 里 │何とかねぇ、アドレスわかりそうなんだ! なずな │知ってる人、みつけたんだ? 知 里 │うん、中田君の親友で稲本君…強引に頼んでるところ。 実 和 │うちのクラスの?! そんなこと頼んで、大丈夫なの? 知 里 │根性でいく!! 実 和 │ふーん…まぁ、ほどほどに頑張って。 そろそろ帰ろっか。 │ │  3人はそれぞれ別々の方向に、口では明るく、しかしメールを打ちながら立ち去る。 │ 別の3人が楽しそうに話しながら入ってくる。 │  葵 │ねぇ、実和がまた携帯買い換えたって自慢してたよ。 麻 子 │うんそうだって。505らしいよ。 葵 │ふーん。505って出たばっかのだよね? 横型とか回るのとか…。ちょっと大きい…。 │ 麻 子 │ずるいよね、実和は。いっつも最新式を親が買ってくれるんでしょう? │ねえ、さやかもずるいと思わない? さやか │別に思わないけど…。 麻 子  │ずるいじゃーん! カメラ付きも505も、すぐに買ってもらってるんだよー!! さやか │だって、そんなの人は人でしょ? 麻 子 │それはそうだけどぉ…。  葵 │さやかに言ったって無駄だよ。携帯に興味ないんだから。 さやか │だって…毎日みんなに会っているんだから、話すことないもん。 麻 子 │これだもんねー。あきれちゃうよ。 葵 │だから言ったでしょ? さやかは変わってるの! さやか │変わってるって、ひどーい! 麻 子 │今どき携帯を欲しがらない中学生なんて、変わってるよねー。 葵 │ホントだよねー。まぁ、さやからしいけどね。 麻 子 │そうかもねー。 さやか │ちょっとぉ、「さやからしい」なんて勝手に決めないでよねー! 葵 │あはは、ごめーん。 さやか │そういう麻子と葵だって携帯持ってないくせに。 麻 子 │だってお兄ちゃんとお姉ちゃんが、「中学生にはそんなモンいらないっ!」て │お母さんに言うから、許可してくれないんだもん。自分たちはいっつもメールばっかし │てるくせにさぁ。 そういえば葵はやけに505に詳しくない?  葵 │そ、そんなことないよ。 ただ、私も別にいらないんだけど、麻子とさやかとだったら、 │メールしたいな! さやか │なーんだ、二人とも本当は携帯欲しいんだ。 麻 子 │あったりまえでしょう! ねぇ、葵? 葵 │(あわてた感じで)う、うん、まあね。カメラなんかなくてもいいから、麻子とさやか │とメールさえできれば楽しいよね。 麻 子 │うん、ホント。メールできないとみんなについていけなくなっちゃうもんね。 さやか │そんなもんかなぁ。 あっ、でも麻子も葵も家にパソコンあるんでしょ? パソコンで │メールできるんでしょ? 麻 子 │それはそうだけど、携帯のメールとはなんか違うんだよねぇ。 葵 │パソコンはみんなが見るしね。 携帯ならいつでもどこでも話せるもんね。 │ │ 二人は話しながら立ち去る │ さやか │いつでも…どこでも…ねぇ…。 │ │ つぶやいてぼんやりしてから、ふと我に返って、二人の後を追う。 │ │ │ │ 子供が二人でキャッチボールしている。 │ しかし、どうも息が合わないのか、落としてばかりいる。 │ 子供1 │しっかりとれよ! ちっとも続かないじゃないか。 子供2 │お前の投げるボールが悪いんだろ! ちゃんと投げろよ! 子供1 │お前がもうちょっと手を伸ばせばとれるだろ! 子供2 │冗談じゃないよ、お前のコントロールが悪すぎるんだよ! 子供1 │少しぐらいボールがそれたって、捕る方がちゃんとしてれば続くんだよ! 子供2 │それはこっちのセリフだよ。 そっちがストライクを投げれば、ずっと続くんだよ!! │ │ 二人揃って、「フン!!」と上手下手へと消えていく。 │ │ 実和、なずな、知里の3人が別々に現れ、机に向かって勉強をしている。 │ 知里と実和はメールを始める。 │ 知 里 │実和、今なにしてる? 実 和 │あたしぃ? 一応 勉強してるよ。 知 里 │わぁ、偉いじゃん。 といっても明日から試験一週間前だもんねぇ。 実 和 │そうだよねー。 中三の二学期期末試験なんて、最悪の気分だよね! 知里は? 知 里 │あたしも一応机に向かってるけど、全然やる気しなくて。 でもさぁ、こうして実和と │メールしているとさぁ、なんかホッとしていいよねぇ。 実 和 │ホントホント。 苦労してるのはあたしだけじゃないんだなぁ、って安心するよね。 知 里 │うん。 携帯買うまではさぁ、親に気を遣ったり怒られたりしながら電話してたけど、 │今は、誰にも邪魔されないモンね。 実 和 │メールで通話料もぐんと減ったし、文字が残るからあとで何度でも読み返せるしね。 知 里 │こんな便利な物をいまだに持っていない人の気が知れないよねぇ。 実 和 │それって、さやかたちのこと? 遅れてるよねー。 知 里 │あたしなんて、携帯なかったら生きていけないよ。 実 和 │ホントだよねー。 あっ、親が帰ってきたみたいだから、そろそろメール終わるね。 知 里 │えーっ、別に親が帰ってきたって、部屋でこっそりメールしてればバレないでしょう? 実 和 │(さっきからずーっとメールにつきあって、勉強できないんだよ!) │うん、でも親が呼んでるから行かなくちゃ。 知 里 │(親なんかほっとけばいいのに)そうかぁ、ごめんねぇ、迷惑だったぁ? 実 和 │ううん、全然。(試験まえに1時間もメールするほど暇じゃないのにぃ!) │またいつでもメールしてね。(とうぶんしないでよね!!) 知 里 │じゃあ、お互い勉強頑張ろうねー。(しかたない、休憩終わるか) 実 和 │うん、メールありがとー! (1時間もムダにしちゃったよ) │ │ メールを終え、机に向かう実和と知里 │ │ 同時に今度はなずなから実和にメールが届く。 │ なずな │実和、今何してる? 実 和 │えっ? 一応勉強してたよ。(1時間も知里とメールしてたなんて、言えるわけない) なずな │あたしも。 それにしても今日の雨、すごかったね。 実 和 │うん、ほんとすごかったよね。 なずな │塾の帰りにびしょびしょになっちゃった。 実 和 │そうなんだぁ。 風邪ひかなかった? なずな │ありがと。たぶん大丈夫。 実 和 │試験前だし気をつけないとね。(っていうか、こんな話したくてメールしてきたわけ?) なずな │なんで勉強するんだろうねぇ。 実 和 │仕方ないよ。頑張ろう!(ちっとも勉強できないじゃんか!!) なずな │うん。 なんかやる気になってきたよ。 やっぱりメールはいいね。 実和も頑張ってね。 実 和 │ありがと。 じゃあね。 │ │ メールを終える二人。 │ イライラする実和…。 │ 実 和 │結局1時間ずつメールしていたのか…。 │あたし、何やってるんだろう? ばかみたい…。 │この2時間、なんにも勉強してないよ…。 │ │ 知里、なずな、実和それぞれ立ち去る │ 葵と麻子が話しながら入ってくる  中央で立ち止まる │ 麻 子 │ねえねえ、聞いて!! 携帯買ってくれるって!!  葵 │えっ、どうして?どうして? 麻 子 │今度ね塾の時間が延びて帰りが遅くなるから、迎えに来てもらうためにね!! │やったぁ、ついにメールができる! 葵 │ホントぉ…よかったね。 麻子前からすっごく欲しがっていたモンね。 麻 子 │ありがとー! 嬉しいなぁ。 メールアドレス何にしようかなぁ。 葵 │決まったら、教えてね。 麻 子 │あったりまえよー。 親友の葵とさやかには真っ先に教えるよー。 │クラスのみんなにも、部活の友達にも、塾の友達にも、アドレスを教えまくって、 │今まで遅れていた分を取り戻すんだ。 メル友100人できるかな? って感じ。 │あれっ? でも葵もさやかも携帯持っていないから、意味ないかぁー。  葵 │実は…持ってるよ…。 麻 子 │えっ、今なんて言ったの? 葵 │私、夏休みから携帯持っているの。 麻 子 │えーーーーっ!! うそーーーーっ! 葵 │今まで黙っていて、ごめんね…。 麻 子 │別にいいけど…ねぇ、ホントに携帯持ってるの? 葵 │うん、夏休みの前から。 夏期講習もあるし、どうせすぐに使うようになるだろう │ からって、買ってくれたんだ。 麻 子 │なんで今まで隠していたの? 葵 │別に隠していたわけじゃないよ。 ただ、麻子もさやかも携帯持っていないし、 │どっちかっていうと携帯に興味ないのかなぁ、って思ったから。それにほかの友達とは │メールしたいとも思わなかったしね。 麻 子 │へぇー、信じらんない! 私だったら、みんなにアドレス配ってメル友増やしちゃうけ │どなぁ。 メールチェックしたときに、「新着メールはありません」なんて寂しすぎる │よ。  葵 │だって、メールチェックなんてしないもん。 麻 子 │そんなもんかなぁ。 まぁ、今度からはメールいっぱい送るから、ちゃんとチェックし │てよね! 返事が遅いと嫌われるよー。  葵 │う、うん…。 麻 子 │今度の土曜日に買いに行くから、日曜からメールできるよ。 ねぇ、アドレス教えて! 葵 │えーとねぇ…。 │ │ 話しながら、立ち去る二人 │ │ 朝の教室 次々に登校してくる まず知里、次になずなと実和 │ なずな │おはよー 実 和 │おはよ 知 里 │ねぇねぇ、きいてよーーーっ! なずな │なに?どうしたの? 知 里 │昨日さぁ、ついに中田君のアドレスがわかったの!! なずな │ホント? やったじゃん!! 知 里 │うん! もう、嬉しくて嬉しくて。 なずな │知里すごいじゃーん! 頑張った甲斐があったねー! 知 里 │うん、我ながら頑張ったと思うよ。 なずな │今日にでも、彼にメールするんでしょ? やったね! 知 里 │どきどきするなぁ。 応援してね。 │ │ 実和は一人でつぶやく 実 和 │そういう人に、無理におしえてもらったアドレスでメールしていいのかなあ? │ │ │ │麻子が登校してくる 葵もやってくる │ 麻 子 │おはよー 葵 │おはよー 麻 子 │昨日はメールありがと。 楽しかったね。 葵 │うん、たくさんおしゃべりしたね。 麻 子 │なんか、学校でのおしゃべりとはまた違うよね。 葵 │そうかもしれないね。 1時間なんてあっという間だもんね。 麻 子 │期末のあと3人で映画行く話まで出たしね! 葵 │あとで、さやかにも聞いてみないとね。 │      │ さやかが登校してくる さやか │おはよー (麻子と葵は少しあわてながら おはよー ) さやか │何話してるの? 麻 子 │う、うん、あのね、期末終わったら3人で映画に行こうかって。 葵 │そうなの。 ちょうどディズニーの新作が始まるからね。 麻 子 │さやかも、ディズニー好きだよね? さやか │うん、好きだよ。 なんていう映画だっけ? 麻 子 │「ファインディング・ニモ」  葵 │はぐれた子どもの魚をさがして、親の魚が冒険する話みたい。 麻 子 │全米では公開以来、すごいヒットしているらしいよ。 葵 │子どもの名前がニモだから、「ニモをさがして」っていう意味だよね。 麻 子 │夏休みから、前売り鑑賞券とか新聞広告とか出ていたもんね! 葵 │すっごい面白そうだよ! 麻 子 │さやかも行くよね? さやか │うん、もちろん。 それにしても、二人とも詳しいね? 葵 │えっ、べ、別に詳しくないよ。 ねえ、麻子? 麻 子 │う、うん。 普通だよね? さやか │ふーん、二人ともずいぶん詳しいなぁ、と思ったからさ。 │ (二人してうろたえている) 葵 │とにかくさぁ、さやかも行くでしょ? さやか │うん、もちろん! 映画を目指して頑張らないとね!  葵 │そうだね! │ (さやかは自分の席に) 麻 子 │あー、びっくりした。 メールのおしゃべりバレルかと思った。 │ 葵 │なんか気を遣っちゃうよね。 麻 子 │昨日のメールで、お互い詳しくなりすぎたかもね。 葵 │さやかに携帯のこと言おうか。 麻 子 │だめだよ。 さやかは携帯があんまり好きじゃないから。 葵 │でも、さやかに秘密にしておくことのほうが、悪い気がする。 麻 子 │じゃあいまさら「携帯やだ!!」とか言われても困らない? 葵 │さやかは、そんなこと言わないよ。 麻 子 │とにかくぅ、もう少しだまっていようよ。 ね? 葵 │うん、わかった…。 │ │ 何気なく二人の会話を聞いていた、なずなと知里 │ 知 里 │ねぇ、今の聞いた? なずな │聞いた聞いた。 あの2人も携帯持っているとはねぇ。 知 里 │あの人たち、この頃ちょっとおかしいよね。 なずな │うん、おかしい。ねぇ、実和もそう思わない? 実 和 │いまごろまで携帯持たないからよ。 まめにコミュニケーション取り合えば、こんな │ことにはならないのにさ。 知 里 │そうだよねぇ。いつでもどこでも連絡取りあえる友達って、必要だよねぇ。 なずな │当たり前だよ。 親友だったらいつでもどこでもつながっていなくちゃね? 実 和 │いつでもどこでもかぁ。 │ │ 何となく浮かない顔で立ち去る実和と、それに気づかず明るい知里となずな │ │ さやかが一人で座っている。 さやかの部屋。部屋の隅に人形がある。 さやか │葵と麻子、この頃なんだか様子が変だと思わない? │私が近づくと慌てて話を変えたりしている気がする。 │どうしたんだろう?  前はこんなことなかったのになぁ。 │ 突然人形が動き出す。 さやかは驚かない。 人 形 │なにか思い当たることはあるの? さやか │(いつものことで驚かない)なんにもないよ。 人 形 │だったら、余計な心配しないことでしょう? さやか │そうだね。それに何かあったとしても、二人が大切な友達であることにかわりないね。 人 形 │そうそう。 でも、気になるようだったら、こんなのはどう? (手を大きく動かす)      │ 突然不思議な音が聞こえると同時に、さやかは頭をおさえる。 さやか │痛い!! えっ、なに? なんなの? 人 形 │そのうちわかるよ。 もっともこの力が、あなたにとってありがたいかどうかは、あな │たの受け取り方次第だと思うけどね。 それじゃ、また。 │ 人形は静かに元の位置に戻り、動かなくなる。 │ │ 突然さやかは耳元に何かを感じ、驚いたようにあたりを見回す 空中で何かを見つけ │ たように手を伸ばす。 捕まえたものをそっと開くと何かが聞こえる。 耳をつけて、 │ 耳をすましてみる。 首をかしげて、けげんそうに立ち去る │ │ 朝の教室 │ 麻 子 │なんかさぁ、夜のメールで話しちゃったから、学校でいまいち盛り上がらないよね。 葵 │そうよね。 しかもさやかには、一から話さなくちゃいけないから、ややこしいよね。 麻 子 │うっかり、メールのこと言いそうになるしねぇ。 葵 │いつでもどこでもメールで会話できると、逆に次の朝まで待てないよね? 麻 子 │そうそう、今すぐ伝えないと気がすまない感じだよね。 │ │ さやかがやってくる。 │ さやか │おはよー 葵と麻子 │おはよー さやか │ねぇ、昨日の夜どこかで私の噂していた? 葵 │えっ、う、うわさぁ? 麻 子 │そ、そんなことするはずないじゃん。 ねぇ? 葵 │う、うんそうだよ。 ど、どうして? さやか │うん…なんかねぇ、おかしな話なんだけど、夜ぼーっとしていたら 、突然葵と麻子の │声が聞こえてきた気がしたんだ。 麻 子 │こ、声がぁ??? 葵 │どんな風に? さやか │どんなって、なんかこう、言葉のかたまりが空中を飛んできた、みたいな。 麻 子 │気のせいだよ、そんなことあるわけないじゃん。 葵 │そうだよ。 気のせいじゃない? さやか │気のせいか…そうだよね。そんなことあるわけないもんね。ごめんね。   │変なこと言って。  葵 │ううん、そんなこといいよ。 きっと居眠りでも していたんだよ。 麻 子 │そうだよ、疲れていたんだよ。 さやか │あはは、ごめん。 なんか変なこと言って。 (笑いながら、立ち去る) 葵 │あー、びっくりした。 何、今の話? 麻 子 │関係ないよ、偶然偶然! 葵 │そうだよね。 言葉のかたまりが空中飛ぶはずないもんね。 麻 子 │なに、葵はさやかの話を信じるの? ありえないよぉ。 葵 │そうだね、単なる偶然だよね。 自分たちがさやかに隠し事していて、後ろめたいから │なおさら気になるのかも。 麻 子 │別に後ろめたいなんて思ってないよ。 携帯買わないさやかが悪いんだもん。 │  葵 │悪いだなんて、そんなぁ。 麻 子 │だって、あたしたちさやかに気を遣って、次の日に同じ話題をしてあげてんだよ。 │あたしと葵はもうメールで話したあとなのにさ! 悪くなんかないよ! 葵 │でも、なんかねぇ。 やっぱり隠しごとは気が重いな。 麻 子 │気にしない気にしない。  それよりさあ、昨日のドラマ見た? 葵 │見たよ。 夜のメールで話したじゃん。 麻 子 │あ、そうだったね。 見終わってすぐにメールしたんだ。 葵 │それよりさあ、知里がサッカー部の中田君にメールでコクったんだって? 麻 子 │それは私に来たメールの情報だよ!! │ │ なんとなく気まずい沈黙 │  葵 │ちょっと職員室に用事あるから、行くね。 麻 子 │うん、あたしも部活のことで行かなくちゃいけないから。 │ │ 子供が2人で並んで座っている。 │ しかし何もしようとしない。 子供1 │いつまでこうしているんだよ。 子供2 │お前のほうこそ、どうするんだよ。 子供1 │捕るのが下手すぎて続かないから、やめたんだよ。 子供2 │投げ方が悪すぎるんだよ。 子供1 │お前のボールだって、人のこと言えるのかぁ? 子供2 │何言ってるんだよ。 あんなにコントロール悪いやつが、よく言うよなぁ。 子供1 │捕り方だって、ひどいもんだぞ! 子供2 │全部お前のせいだぞ! 子供1 │なに言ってんだよ、お前が悪いんだよ!! │ │ 二人揃って、「フン!!」と上手下手へと消えていく。 │ │ 実和となずなが登校してくる。 しばらくすると知里が走ってくる。 │ 知 里 │実和ぁー!、なずなぁー! 実 和 │どうしたの? なずな │なんかあったの? 知 里 │もうあたし生きていけない…。 (泣き崩れる) 実 和 │何があったの? ちゃんと説明してごらん! なずな │泣いてるだけじゃわかんないよ! 知 里 │中田君にね、思い切ってね、メールしたの、お友達になってくださいって。 なずな │ホント? 頑張ったじゃーん!! │ 実 和 │それで? なずな │何て返事来た? 知 里 │それがね、次の日中田君が直接教室に来たの。 なずな │すごいじゃない! 来てくれるなんて。 知 里 │あたしも最初はそう思ったの。 実 和 │それで? なんて? 知 里 │それがね、こわい顔して「誰にアドレス聞いた!」って。 なずな │こわい顔? 怒っていたの? どうして? 知 里 │よくわかんないんだけど、とにかく誰に聞いたのかって。 なずな │それで? 親友の稲本君から教えてもらったんでしょ? なら、いいじゃん。 知 里 │それがね、あんまりこわい顔で言うから、つい答えちゃったの。そうしたら、すぐに │稲本君の席に行って、いきなり殴っちゃったの。 なずな │えーっ!! 殴ったぁ? なんで?? 知 里 │アドレス教えたからだって。 なずな │うそーっ! たったそれだけで? 知 里 │うん、そうなんだって。 本人の許可なしに教えない約束だったらしいよ。 なずな │別にいいじゃんねぇ? 減るもんじゃないし。 知 里 │どうしよー、中田君には嫌われたし、稲本君には悪いことしちゃったし…。 実 和 │無理にアドレス聞き出すからよ。 知 里 │そんなこと言ったってぇ。 メールしたかったんだもん。 実 和 │中田君は、突然メールして喜ぶような人には思えないけどな。 なずな │そんなことわかんないじゃん。 ねえ知里。 知 里 │それがさぁ…言われちゃったんだ。 なずな │なにを? 知 里 │「人のアドレスを無理矢理聞き出して、突然メールしてくるような子は好きじゃない」 │って…。 なずな │実和すごーい!なんでわかったの? 実 和 │だって知里の話を聞いていると、中田君って │「アドレスは教えたがらない」「約束はきちんと守る」 │…なんていう人でしょ? そのくらいわかるよ。 知 里 │だったら、最初から言ってくれればいいのにぃ。 実 和 │言ったって聞くような知里じゃないでしょ。 なずな │そりゃそうだね! 知 里 │ひどーい! なずなだって応援してくれていたじゃない! なずな │ちょっと強引だったかもねぇ。 知 里 │まだコクッてもいないのに、振られちゃったあたしの身になってよー! 実 和 │(笑いながら)自業自得よ! なずな │(笑いながら)実和冷たーい。 知 里 │二人とも人のことだと思って、ひどすぎるよー!! │ なずな │だって人のことだもーん。 │ 笑いあう  知里にも少し笑顔が戻る │ 葵と麻子がやってくる  葵 │ちょっといい? 実 和 │なあに? なずな │葵と麻子が珍しいね。 麻 子 │これを見て。 (携帯の画面を見せる) 実 和 │あっ、麻子も505買ったんだ…(画面を見て驚いて)なにこれっ!!! なずな │なになに…(のぞきこんで)こんなの、ひどい!! 知 里 │なんなの…(知らずに声に出して読み上げる) │「知里はサッカー部の部長中田君にコクる前から振られてしまいました。 知里に頑張 │ れと応援したい人は、24時間以内にこのメールを5人の友達に送ってください。 │ なお、このことを知里にしゃべったり、メールを回さなかった場合、知里は永遠にカ   │ レができません。」どういうこと、これ!!! なんなのよっ、このメール!!!!  葵 │このメールが麻子に来たの。 麻 子 │悪質なチェーンメールが来ることがあるってみんなから聞いていたけど、実際にもらっ │たのは初めて! 葵 │どうしようか迷ったんだ。 本当ならしっかりもののさやかに相談したいところなんだ │けど、今回はちょっとまずいからね。だけどこのままだと知里がかわいそうで、思い切 │って言うことにしたの。 知 里 │誰が、誰がこんなひどいことを! もう、わたし明日から学校行けない! 誰がこの │メールを受け取っているかわからないもの! 陰で私のことをみんなして笑っているの │よ!!  もう、誰も信じられない!!! 実 和 │ 落ち着きなさいよ! 何人に回っているのかとか、どこの誰が回し始めたのかなんて、 │わかるわけないじゃん。 そんなこと気にしたってしかたないよ! なずな │そうだよ。 そのうちにみんな忘れるって! 知 里 │そのうちっていつよ!いつになったら、みんなは忘れてくれるのよ! 葵 │ねえ、知里…少なくとも麻子は、このメールを誰にも送ってないよ。 麻 子 │そうだよ。 知里、気にすることないよ! 知 里 │葵、麻子…ありがとう。 なずな │知里、よかったね。 葵や麻子が親切に教えてくれて。 実 和 │そうだよ。 別に親しかったわけじゃなかったのに、メール止めてくれたり、心配して │くれたりして。 知 里 │うん…。今回のことはすっごく嫌だけど、でもそのおかげで麻子や葵の優しさがわかっ │たから、そのことだけはよかったかな … 。 なずな │それにしてもさぁ、どうしてあたしたちにはチェーンメール来なかったのかなあ? 実 和 │そんなの分かりきってるでしょ?  知里と仲がいいあたしたちは、他の人に回さない │し、絶対知里に言うからだよ! 麻 子 │そういうことね。 だからあんまり一緒にいない私たちには回ってきたわけね。 │  葵 │なんか、はじめの犯人もムカツクけど、平気で回す方も回す方だよね。 実 和 │結局は自分に関係ないから、どこかで面白がっているんだと思う。 なずな │そうだよね。「24時間以内に5人に回さないと、知里に一生カレはできないでしょう」 │なんて、よく考えたらありえないもんね。 知 里 │チェーンメールの気分の悪さは、やられた人じゃないとわかんないよ。 麻 子 │そうかもしれないね。 「気にしない方がいいよ」って人には言えても、いざ自分に │ 来たら、やっぱり気にしちゃうよね。 葵 │そうだね。 わたしはアドレスを人に言ってないから、今のところ変なメールはないけ │どね。 なずな │つきあいが広くなると、そういうことが増えてくるのかもね。 │あたしはね、最初アドレスを友達に教えるの面倒だから、短くて簡単なのにしていたん │だけど、迷惑メールが毎日何通も入ってくるから、結局長いのに変えたんだ。 実 和 │知里には悪いけど、やっぱり人のアドレスは勝手に教えちゃいけないと思うな。 知 里 │うん、そうかもね。あたしあせりすぎていたかなぁ。 麻 子 │カレの親友から無理矢理聞き出したのは、ちょっとやりすぎたかもね。 葵 │あの人のタイプだったら、直接話しかけたり、アドレス聞いたりしたほうがよかったの │かもしれないね。 知 里 │あーあ、もう一回やり直せないかなぁ。 そしたら正々堂々とコクるのになぁ。 なずな │もう今さら無理無理! 実 和 │なずな! そんなこと言わないの! 知里、大丈夫だよ! また、頑張れ。 知 里 │なんか気休めっぽいなぁ。 (笑いあう) なずな │ねぇ、アドレスの交換しない? 知 里 │そうだよね。 あたしのチェーンメールのこと、教えてくれたの、すっごい嬉しかった。 │友達になってよ。 葵 │えっ、あたしたちと? 麻 子 │メル友少なくて、つまんなかったんだ。 実 和  │メル友なんて多い方がいいに決まってンじゃん! なずな │そうそう。 みんな100人くらいアドレス知ってるよ! 麻 子 │ほんと? すっごーい! あたしなんて、まだ20人だよ。 葵は? 葵 │あたしぃ? あたしはもともとみんなに携帯のこと言ってないから、麻子だけだよ。 なずな │うそー! メル友1人しかいないの? チェックしたときにメールが届いてないと、 │なんか寂しくない? 葵 │えっ…それがあたりまえだったから。 別に何ともないよ。 麻 子 │だから葵からはなかなか返事がこないんだぁ。 もう! 知 里 │あたしたちなんて、メールして5分返事がないと、怒るよね。 なずな │友達なくすよねえ! 知 里 │そうだよ!だからマメにチェックするんだもん。 麻 子  │勉強になるなぁ。 葵、よく聞いておいてよね! 葵 │そんなぁ…あたし自信ないなぁ。 │ 実 和 │そのうち慣れるよ。 あたしなんて、メル友多いから大変よ! │ さやかがやってくる さやか │こんなとこにいたんだぁ。探しちゃったよ。 葵 │(慌てた様子で)さ、さやか。どうしたの? さやか │別にどうもしないけど、最近なんか変だからさぁ。  葵 │えっ、別に変じゃないよ。ねぇ、麻子? 麻 子 │う、うん。変じゃないよ。 実 和 │ねぇ、あんたたちさぁ、いい加減にホントのこと言ったらどうなの? さやか │ホントのことって? 麻 子 │べ、別になんでもないよねぇ、葵。  葵 │麻子、もうさやかに隠し事は嫌だよ。 さやか、あたし夏休みから携帯持ってるの。 麻 子 │あ、あの…さやか、ごめんね。あたしも携帯持ってるの。 葵 │メールもやりとりしていたんだ。 ごめんね。 いままで黙っていて。 さやか │どうして、そんなことで気を遣うの? 葵 │だって、さやかは携帯嫌いみたいだから…。 さやか │私が嫌いなら、みんなも嫌ってくれるの?  葵 │そういうわけじゃないけど。 麻 子 │ごめん、さやか。でもね、葵はあたしが買ってもらえるまで、ずっと黙っていたんだよ。 │あたしたちに気を遣って。 実 和 │へぇ、あんたたちの仲って、そんな気を遣うんだぁ。 メールも好きにできない仲なの │かぁ。 なずな │ふーん、お友達も大変だねえ。 知 里 │そういう葵と麻子は、メールのことであたしを助けてくれたけどね! 葵 │助けただなんて…あたしたちは別に…。 ねぇ、麻子? 麻 子 │うん。 ただ、あんまりひどいチェーンメールだったから、教えてあげただけだよ。 なずな │勇気を出して教えてくれたんだもん、もうあたしたちは友達だよね? 実 和 │携帯持っているのに言えないでいる人と、どっちが仲がいいんだろう? 知 里 │そうだよねー。 前の夜にメールで話した内容を、携帯がない人のためにもう一度 │次の日に3人で会話し直すらしいよ! 大変だねー。 葵 │知里!! そんなぁ! 麻 子 │そうだよ! あたしたちは別にそんな… さやか │もういいよ。 葵・麻子、ごめんね…気を遣わせちゃって。 この頃なんかおかしい │と思っていたんだ。 映画の話も二人はやけに詳しかったもんね。 葵 │さやか、今まで黙っていて、ホントごめんね!! 麻 子 │葵はね、何度も言おうとしたんだけど、「さやかは携帯が嫌いみたいだから、しばらく │は言うのやめておこうよ」ってあたしが言ったんだ。 悪いのはあたしなんだからね! さやか │ううん、謝るのは私のほうよ。二人に余計な気を遣わせちゃったんだもんね。 │これからは、メールで話したことを知らないふりしていちいち報告しなくていいからね。 葵・麻子 │さやか…。 │ さやか │携帯ないからメールもできないけど、これからも友達でいてね。  葵 │そんなの当たり前でしょ! さやか │よかったぁ。 あっ、もういかなきゃ。 じゃあね。 (立ち去る) 麻 子 │さやか! 葵 │さやかぁ…。 なずな │いいじゃん、別に。 気を遣ってあげたんだから。 知 里 │それに、あたしたちと友達になれたんだから。 なずな │あたしたちとなら、いつでもどこでもメールできるよ!  葵 │でも…。 なずな │「これからも友達でいてね」って言ってくれたんだからいいじゃん。 麻 子 │さやか、傷ついたかなぁ。 実 和 │あたしだったら、こんなことくらいで傷つくような友情はいらないな。 知 里 │そうだよ! あたしたちみたいに、離れていたっていつでもどこでも友情を確かめ合っ │ていれば、こんなことじゃ壊れないのにねぇ。 なずな │そうそう。 麻 子 │いつでもどこでも確かめられる友情かぁ…。確かにそうだよねぇ。 葵 │でも…なんかそれもなぁ。 なずな │何が言いたいの? 知 里 │あたしたちはね、いつでもどこでもメールで連絡取り合っているから、隠しごとも │秘密もないのよ。だから今度のチェーンメールだって、実和やなずなが心配してくれる │んだもん! なずな │葵も麻子もさやかとメールできないから、このごろ友情に自信がなくなってきたんじゃ │ないの?  葵 │そんなことないよ。 さやかとの友情はそんなことでこわれない!! 麻 子 │あたりまえじゃん。あたしだって同じだよ。 ただ、あたしたちだっていつもメールを │していれば、もっと仲良くなれるんじゃないかなー?って思ったの。 知 里 │まあ、そのうちわかるわよ! いつでもどこでも気持ちが通じ合う安心感をね。 │実和、なに黙ってるのよ。 携帯を一番愛用しているのは実和でしょ? 携帯の │便利さを知らない、この不幸な人たちに、教えてあげなさいよ!! 実 和 │どっちが不幸なんだかわからないけどね。  葵 │えっ? なあに? 何て言ったの? 実 和 │なんでもない!! なずな │あっ、あたし塾があるんだ。 知里もだよね? 知 里 │うん、そう。 実和はまだかえらないの? 実 和 │うん…葵と麻子と帰るから、先に帰っていいよ。 なずな │そう。じゃあまた夜にメールするねー! 知 里 │あたしもメールするね。 たまには実和からくれてもいいんじゃない? 実 和 │うん、まあ気が向いたらね。 ばいばい。 │ なずなと知里は帰っていく。 │ 麻 子 │なんか親友って感じでいいね。 実 和 │そう見える? 葵 │見えるって? 違うの? 実 和 │メールのやりとりの数で言えば 、間違いなく親友かもね。 葵 │えっ?? 本当は違うの? │ 実和にメールが届く。 素早く返事を送る。 また届く。返事を送る。 実 和 │なずなと知里からだよ。 二人とも「今夜またメールするねー」だって。 麻 子 │実和、さすがねー! メールが早いもん。  葵 │ホントねー! なんでそんなに早いの? 実 和 │教えてあげようか? 麻 子 │うん、教えて教えて! 携帯使いこなしナンバー1の実和から教わるなんて嬉しい!! 実 和 │簡単だよ。 使いそうな文章をいくつも登録しておいて、適当に組み合わせて使えば │いいんだから。 麻 子 │へぇ、そうなんだー。そういえば、そんな機能があるって、説明書に書いてあったな。 実 和 │たとえば、さっきのなずなへの返事は「メールありがと」と「またメールするね」と名 │前を送ったんだ。 名前はいつも、「バイバーイ!  実和より」となるわけ。 麻 子 │そうだったんだぁ。 じゃあ知里には? 実 和 │なずなへのメールの宛先を知里に変えて送っただけだよ。 葵 │そんなぁ…メールに心がこもってないよ!! 実 和 │あたりまえでしょ? いちいちメールに心こめてなんていられないわよ!! 麻 子 │それもそうだね。 実 和 │メル友がたくさんいると、結構たいへんなのよ。 返事をすぐに送らないと、メール │来なくなっちゃうしね。 麻 子 │人気者は辛いわねえー。 実 和 │やだ、別に人気とは関係ないわよ。 │ │ 二人は笑いながら帰る。 葵はさえない顔で後につづく。 │ 場所は変わって、さやかの部屋 │ さやか │あーあ。葵と麻子に隠しごとをされてたなんて、ショックだなぁ。 大事なことは、 │何でも言ってきたつもりなのにねぇ。 やっぱり、いつでもメールできないと、 │だめなのかな? 人 形 │あら、珍しく弱気ねぇ。どうしたの? いつものあなたらしくないわよ。 さやか │弱気にもなるよ。 親友二人が携帯のこと隠して、二人だけでメールしてたんだもの。 人 形 │ふーん。それって意地悪だったの? さやか │まさか!! 葵と麻子がそんな意地悪するわけないよ!! 人 形  │そうなんだ。 あなたにだけ隠しごとをしていても? さやか │わたしの親友のことをそんなふうに悪く言わないで!! │二人とも私のことを考えて黙っていたのよ。いい加減なことを言わないでよねっ!! │ 人 形 │なーんだ、自分でちゃんとわかってるんじゃない。 さやか │ちゃんとわかってる??  どういうこと? 人 形 │二人はそんなひどい友達じゃないってこと。 悪気なんて少しもないこと。 │メールなんてしなくても、友情にひびなんてはいらないこと。 さやか │そ、そんなことわかってるわよ!! 葵も麻子も大切な親友だもん! 人 形 │ならいいんだけど…身近に携帯持つ人が増えてきて、この頃なんかいじけ気味だから、 │そんな大切なことも気づかなくなっちゃったかと、心配したよ。 さやか │ひどーい! 私はそんな…(突然足音が聞こえて慌てる) かえで │さやか、はいるよー。 │あっ、ちょっと待って。 (人形に合図。人形もすぐにいつもの場所へ) さやか │(人形の背中に向かって)ねぇ! 人 形 │(振り返りながら)なあに? さやか │いろいろ言ってくれて、ありがと! 人 形 │あれっ? そんなことわかっていたんじゃなかったの? さやか │(照れくさそうに)アドバイスありがとっ! 人 形 │今夜はずいぶん素直だね。 (にっこり笑って)まぁ、頑張って! かえで │入るわよ!  ただいま。 あー疲れた。 今日も残業だよ。 OL1年生も、結構 │頑張ってるなぁ。 さやか │お帰り。 なに自分をほめてるの? かえで │いーの!! 自分で自分を応援してるんだから!! │それより、お母さんが、心配してたよ。 なんかさやかが元気ないって。 さやか │そんなことないんだけどね。 ただ、葵と麻子が携帯持っていたことを内緒にしていた │ことがわかって、ちょっとショックだっただけ。 かえで │今どきの中学生は生意気だよなぁ。 あたしたちの時はせいぜいポケベルだったけど、 │それもほんの一部の目立つ子だけだったもんなぁ。 さやか │携帯は普通の子でも結構持ってるもんね。 かえで │ねぇ、さやか。 あんたお小遣いいくら? さやか │えっ、なによ急に。 4千円だよ。たぶんクラスでも少ないほうだと思う。 かえで │これだもん、ずるいよなあ。 あたしの時は中3でも3千円だったよ。それなのに、 │たった6年で千円もアップしてる!! さやか │仕方ないよ、物価が上がってるもん。 かえで │昔を知らないくせに、よく言うよ!!価格破壊でかえって下がったくらいなのにさぁ! │今どきの中学生は、携帯で毎月どのくらい使ってるの? さやか │よく知らないけど、「1万円になって親に怒られた!」とか「毎月3000円が上限の │プランにさせられた」とか言ってるよ。 中には「先月2万円を越えて、ついに契約を │解約させられた!!」なんていう子もいたなぁ。 かえで │2万!? 許せない!! あたしの給料いくらだか知ってる? 1ヶ月真面目に働い │て、やっと16万だよ! そこからウチに2万入れて、昼食代も洋服代も、飲み会や │デート代まで払っているのに、中学生が携帯に2万!! 許せないなぁ!! │ さやか │私に怒らないでよねぇ。 私は携帯をもってないんだから。 かえで │そうだったね。 ごめんごめん。 あたしが言いたかったのは、こんなことじゃないん │だ。 つまりね、お姉ちゃんの時代は誰も携帯なんて持ってなかったけど、今の │中学生より、よっぽど友情を大切にしていたと思うよ!…っていうこと。 さやか │どういう意味? かえで │会社の帰りに電車の中で見かける中学生や高校生はね、みんなで一緒にいるのに、 │誰かしら携帯いじったりメールしたりしてるのよね。 今、目の前にいる友達を大切に │しないで、どこかの誰かとメールする方が大切なの? さやか │そういえば私の友達もそうかもしれない。 学校では一応禁止されてるから、みんなで │いてもいろいろしゃべったり笑ったりしてるのに、放課後や休みの日にみんなで集まる │と、誰かしら携帯取り出して、メールしたりメールチェックしたりしているかも。 かえで │ねぇ、その子たち本当にそんなにメールばかりしてる? さやか │ううん、そんなことないよ。 全然鳴ってないのに、携帯開いてはチェックしてる… │「ねぇ、何回チェックすれば気が済むの?」って聞きたくなったこともあるくらい。 かえで │そこなんだよねぇ。 そりゃあ、あたしたちみたいに大人になれば、いろんなつきあい │もあるし、友達だってすぐ近くにはいないから、メールや電話をするけど、あんたたち │中学生は、毎日顔を合わせているわけでしょ? さやか │それはそうね。 ただ、いっつもメールをしている友達は「いつでもどこでも友情を確 │かめられる!」っていうけどね。 かえで │変なの。 なんで「いつでもどこでも友情を確かめなくちゃいけない」のかねぇ? │よっぽど自信がなくて、心配なんだね。さやかはそんなヤワな友情じゃなくて、 │ちゃんとした友達見つけなさいよ!! さやか │(笑って)わかってるって! でもありがと。なんかモヤモヤしていたものがスッキリ │したみたい。 かえで │まあ高校生になったら、別々の高校に行った友達とメールすればいいんじゃない? │あわてない、あわてない! さやか │うん、はじめからそのつもりだよ。 あれ? もしかしてお姉ちゃん、お母さんから │なんか頼まれたぁ? かえで │(笑いながら)まさか!! かわいい妹のためを思って忠告しにきただけ。 │じゃあね! おやすみ! さやか │おやすみー! │ 人形が動き出す 人 形 │いいお姉さんだねぇ。 しっかりしてるし。 さやか │うん! 6つも離れているせいか、心配してくれるんだ。 人 形 │私も、お姉さんに賛成だな。 いままでのあなたのほうが、あなたらしいとおもうよ。 さやか │そうなのかな? 人 形 │昨日あなたにあげた「力」のこと、おぼえてる? さやか │飛んできた「声」のこと? 人 形 │耳を澄まして、「声」をつかまえてごらん! │ さやか │「声」をつかまえるの? 人 形 │そう。そうすれば何かが変わるかもしれないわよ。それじゃあまたね! さやか │えっ、もう戻っちゃうの? もうちょっといいじゃない。 人 形 │「力」を使ったから、くたびれてるの。 それじゃ、がんばってね! │ 元の位置に戻って動かなくなる │ さやかは、また空中で何かを見つけて捕まえる。耳を澄まし、空中をつかむ。   │ 暗 転 │ 翌日 放課後の教室 知里・実和・なずな・葵・麻子が背を向けている稲本に近づく │ 実 和 │稲本君! 稲 本 │(振り返り)ん? おう、どうした? 実 和 │知里が謝りたいって…。 稲 本 │謝るって? 何をだよ。 実 和 │中田君のことだよ! 稲 本 │あれは別に、俺と中田の問題なんだから、謝ってもらうなんてそんな…。 知 里 │昨日は、ごめんなさい!!! あたしのせいで、稲本君に痛くて嫌な思いをさせて │しまって…。 あのぉ、殴られたところ、大丈夫? 稲 本 │ああ、あんなのなんともないよ。 それより、俺のほうこそごめんな。 なんか、 │中田を怒らせてしまったみたいで。 知 里 │ううん、あれは全部あたしが悪いんだもん。 稲本君は「教えない約束だから…」って │言ってくれてるのに、強引に聞き出したあたしがいけなかった。ホントごめんなさい。 稲 本 │いや、どんなに頼まれても、俺が教えなければこんなことにならなかったんだから、 │やっぱり中田との約束を守らなかった俺が悪いんだよ。 ごめんな! なんかお前の │気持ちがうまく伝わらなくて、責任感じてるんだ。 麻 子 │ねぇ、なんか稲本君もいい人じゃない? なずな │うん、あたしもそう思っていたところ。  葵 │言い訳や弁解する人はたくさんいるけど、自分の責任を認めるなんて、男らしいよね。 知 里 │みんな、なにコソコソ話してるのよ! 稲本君に一緒に謝ってよね!! 稲 本 │謝るだなんてそんなぁ。 あのさぁ、親友としてわかってほしいんだけど、中田はね、 │とってもいいやつなんだよ。 サッカー部の部長として本当に一生懸命、部をまとめて │きたし、あいつの頭にはサッカーのことしかないんだ。 だからこそ、時には先生と │意見が食い違ったりコーチとぶつかったりすることもあったけれど、それも全部 │サッカーのためなんだ。 携帯だってあいつには必要ないものなんだけど、試合や練習 │の時に先生やコーチと連絡を取ったり、ほとんど毎日夜の7時から9時まで通ってる、 │クラブチームでの練習用に、どうしても必要だったからなんだ。 知 里 │あたし、、全然知らなかった。 稲 本 │だから中田は、サッカー以外の目的で携帯を使う気なんてないし、アドレスもほとんど │教えてなかったんだ。 俺だって、今まではちゃんと約束を守って、誰にも教えないで │いたよ。 │ │ │ │ │ │ 実 和 │それなのに、どうして知里に教えてくれたの? 稲 本 │親友の俺としては、あんなに愛想が悪くて誤解されやすい中田のことを、彼女がちゃん │とわかった上で、気に入ってくれたのが嬉しくて、ついね。 知 里 │メールに関しては、理解できなくて怒らせちゃったけど…。 稲 本 │でもね、あいつは本当にいいやつなんだ。 きちんと話せば、彼女の行動もきっと │わかってくれるって。 │      │ そこへさやかがやってくる      │ さやか │稲本君、中田君から大事なメールが届いているわよ。 │ │ 「さやか!」「どうしたの?」と口々に驚く。 │ │ 半信半疑で携帯を取り出す。 稲 本 │本当だ! 中田からメールが届いている!! │ 「この前は突然殴ったりして悪かった。 親友の稲本がそんないい加減な気持ちで俺 │  のアドレスを教えるはずはないのに、理由も聞かずに殴ったことを後悔している。   │  彼女のことにしても、どんな子なのか知らないのにメールのことだけで、好きじゃ │  ない!なんて決めつけてしまった。彼女には直接会って謝ろうと思ってる。 │  親友のお前にはメールで許してくれ。 中田 」 │そっかぁ、よかった! やっぱり中田はいいやつだな。 知 里 │よかったぁー。 (知里は嬉しくて泣きそうになる) なずな │知里、よかったじゃん!! 麻 子 │きっと、突然で照れちゃったのかもね。 葵 │こんなメールなら、大歓迎よね! 知里だったらずっととっておきたいくらいでしょ? 実 和 │ずっととっておきたいメールなんて、そうそうないわよ。 知 里 │そうねぇ。あたしも中田君のメールだったら、ずっととっておきたいけどね。 なずな │いつもそんなメールばかり送ってるわけにはいかないもんね。 葵 │でも、忙しいなら忙しいって言えばいいし、心のこもらないいい加減なメールを │いやいや続けるよりも、「後でね!」って言ってくれたほうが嬉しいな。 実 和 │そんなことが気楽に言える友達とばかりメールしてるわけじゃないでしょう? │時には…ううん、ほとんどがそんなメールばっかりよ。  葵 │あたしは、そんなの嫌だな。 そんなメールなら、しなくてもいい。 麻 子 │実和はたくさんメル友いるし、しょうがないんじゃないの?  葵 │そんな相手を友達って呼べるの? メル友って、メールしあう友達っていう意味なんで │しょ? 他の人に送ったのと同じメールが来て、麻子は嬉しい?あたしはいやだ!! 実 和 │しょうがないじゃない、あたしには100人くらいメル友がいるのよ。 1人1人に │心のこもったメール送っていたら、時間がいくらあったって足りないわよ!! 葵 │だったら、いつもメールしあう友達はもっと減らせばいいじゃない! │ なずな │ねえ、実和。 実和がくれるメールってそんな気持ちで打ってたの? 知 里 │あたしたちには違うよね? 実 和 │似たようなもんよ!! なずな │えーっ、なんかひどーい!! 知 里 │そうだよ、毎日メールしてたじゃーん!! 実 和 │じゃあ聞くけど、テスト前に1時間もメールするのはありなの? 麻 子  │メールって、始めると1時間ぐらいすぐに経っちゃうよね?  葵 │そうだね。この間映画の話をしていたらあっという間に1時間経っていたもんね。 知 里 │だって昨日は、実和とメールしたくてそれまでしっかり勉強してから、休憩時間に   │メールしたんだもん。それならいいじゃん! なずな │えっ? 知里も実和にメールしたの? あたしも塾の帰りに雨でびしょぬれに │なっちゃったから、実和にメールしたんだよ。 稲 本 │じゃあ、昨日の夜は結局2時間もメールしてたのか? 実 和 │そうよ! テスト前だっていうのに、勉強のグチや塾帰りに雨に濡れた話を │バカみたいに2時間もメールしてたのよ。 知 里 │そんな言い方、ひどすぎるよ!! なずな │知里と1時間もメールした後だなんて、知らなかったんだもん。 さやか │そんなことさえも言えない仲が、あなたの言う親友なわけ? 実 和 │仕方ないでしょ、メル友が多いんだから! さやか │そんなの理由にならない! だったらメル友とやらを、減らしてしまえばいいだけよ。 実 和 │何言ってるのよ。 さやかは、さやかが携帯を持たないことで葵と麻子にどれだけ │気を遣わせたか 、知ってるの? さやか │麻子と葵に?… そうかもしれない…ごめんね。  葵 │そんな…あたしたちは別に…。 麻 子 │そうだよ。ウソをついて謝らなくちゃいけないのはあたしたちだよ。 稲 本 │あのさぁ、ちょっと言わせてもらっていいかなぁ。 知 里 │なあに? 稲 本 │今みんなが話していることってさぁ…携帯とかメールとか関係ないんじゃないかなぁ。 なずな │どうして?携帯を持つとか持たないとか、メールの内容とかでもめてるんだから、関係 │あるに決まってるでしょう? 麻 子 │そうよ!男子にはメールなんて関係ないかもしれないけど、女子には大事な問題なの! 稲 本 │そんなことないさ。男子だって、まめにメールしているやつはたくさんいるし、女子と │も気軽にメル友になっているよ。そういう意味では男女は関係なし。 実 和 │まあ、そうかもしれないわね。でも、それがどうしたの? 稲 本 │結局さぁ、携帯とかメールとかの道具の問題じゃなくてさぁ、相手にどう接していくか │の気持ちの問題なんだと思うんだよね。  葵 │気持ちの…問題? 稲 本 │そう、気持ちの問題。友達に正直な気持ちをどうやって伝えていくかの、気持ちの問題。  葵 │そうかぁ! そういわれてみれば、そうかもしれないね。 │ 知 里 │どういうこと? よくわかんない! なずな │なんで携帯とかメールの問題じゃないの? 麻 子 │うーん、わかるような、わかんないような…。さやかはわかった? さやか │「携帯はいつでもどこでも友情が確かめられる」ってお姉ちゃんに言ったら、逆に │「あんたたちの友情はいつでもどこでも確かめていなくちゃいけないものなの?」って │聞かれちゃった。 実 和 │当たり前じゃない! メールの返事がちょっと遅れると、 │「あの子はちっとも返事をしない」って噂になっちゃうし、そうなるとみんな段々と │メールをくれなくなっちゃうでしょう? 知 里 │そうだよね? 10分返事がないと、心配したりイライラする子、いるよね? なずな │うん、だから家でも携帯を手放せないって言うか、気になるっていうか。 麻 子 │だから、誰かとしゃべっていても、鳴ってもいないのに携帯を時々開いては確かめて │いるわけね。 実 和 │電波の届かないところにいると、なんか妙に不安というか、落ち着かないしね。 知 里 │今すぐ伝えたいときに伝わらないと、寂しいでしょ? なずな │次の日までなんて覚えてないしね。  葵 │でもね、最近麻子とメールするようになって、気づいたことがあるんだ。 麻 子 │えっ? なあに? 葵 │メールって便利だけど、引き換えにすっごく大切なものを奪っている気がするの。 稲 本 │すっごく大切なもの? 葵 │うん…たとえばね、「明日この話をしたら、さやかや麻子は喜んでくれるかな?」とか、 │「この話をしたら、二人はどんな顔をして驚くかなぁ?」、なんて考えたり楽しみに │することがなくなるんだよね。 さやか │嫌なことがあったときも、きっとそうだと思うよ。 この間ひとりで先に帰ったでしょ │う? あのときなんて、葵と麻子に裏切られた気持ちで、すっごく嫌だった。 でも、 │うちへ帰っていろいろ考えたりお姉ちゃんと話したりするうちに、葵と麻子の気持ちが │わかってきたの。 次の日には、すっかり落ち着いていたもん。 あれが、あの日の夜 │メールで二人と会話していたら、きっと二人を恨むような言葉をたくさんぶつけちゃっ │た気がする。 そう考えると怖いな。 実 和 │だってそのとき一時的にでもそう思ったなら、それを伝えてどうしていけないの? 葵 │じっくり考えて、結論を出してから相手に伝えた方がいい場合もあるんじゃない? │一度口にしたり文字にしてしまった言葉は、もう二度と消えないから。 知 里 │そうかもしれないね。前にね、友達から受け取ったメールの何気ないひと言や顔文字が、 │すごく気になって、眠れないくらい悩んで、次の日に勇気を出して聞いてみたら、なん │と「そんなメール送ったっけ? 覚えてないなぁ」だって!!ばかみたいだった。 なずな │顔文字や記号だってバカにできないよ。喜んだ気持ちを伝えたはずなのに、相手が怒っ │ているからおかしいと思って送信メールを見直してみたら 、ちょっとした手違いで怒 │った顔を送っていたんだ。それだけで、しばらくきまずかったもん。 麻 子 │なんかこわーい。いかにもありそうだよねー。 あたしなんかすぐやりそう! │ 実 和 │実はね…あたし、みんなから携帯やメル友のことで「すごーい!」って言われることに │満足していたっていうか、得意がっていたというか…そんな感じだったんだ。 だから、 │携帯だって新しいのが出るたびに真っ先に買ってもらったわ。 ウチの親は、もともと │自分でも新しい物が好きだから、「塾で帰りが遅くなるから!」とか「カメラ付きじゃ │ないとみんなから遅れちゃう!」なんていうだけで、自分のを買い換えるついでにあた │しのも買ってくれたんだ。 麻 子 │それでいっつも新しい携帯持っていたんだ。でも、それはそれでいいじゃん。 実 和 │よくないわよ! 初めのうちは結構いい気分だったけど、そのうちにどれもなんか同じ │に見えてきた。たまに気に入ったのがあっても、次のが出るとみんなから「今度はどれ │買うの?」なんて言われて、結局欲しくもないのになるべく目立つ新しい感じのものに │買い換えたりして…。 葵 │ふーん、人にはいろんな悩みがあるのねぇ。 なずな │でも、メル友がたくさんいるのはいいんじゃない? 実 和 │そうでもないんだな、これが!調子に乗ってどんどん増やしたら、たいして親しくもな │い子から思い出したようにメールが来るし、好きな人が変わるたびにアドレスを変える │子からは「アドレスが変わりました!変更よろしくぅ」なんてしょっちゅう来るたびに、 │「お前いい加減にしろよな!!」ってかんじにイライラむかつくし。 知 里 │あたしは中田君一筋だから、かわってないよー。 なずな │なんだ、あの数字、中田君に関係あるの?! 知 里 │あっ、言っちゃった。 あの人の誕生日とあたしの誕生日を並べたの。 麻 子 │へーっ、そうなんだ。知らなかった! さやか │そんなことは、どうでもいいの! それで実和はどうしたいの? 実 和 │どうって? さやか │メル友をへらす気あるの? 思い切って、本当に大切な友達だけに絞る気はないの? 実 和 │そんなことをしたら、あたしにメールをくれる子はいなくなっちゃうわよ。 さやか │それでだれからもメールが来なくなったら、今の友達なんて、そんなものだったのよ。 │きっぱりさよならしちゃえばいいじゃない!! 実 和 │でも、メールが届いてないことがふえるかもしれないし。 さやか │実和らしくないよ!! そんな形だけの友情をもらって何が嬉しいの? 実 和 │形だけでもないよりはましでしょ!! 葵 │そんなことないと思うな。 携帯なんてない方が当たり前だったんだから、そんな心配 │する必要ないでしょ? 麻 子 │そうだよ。 あればあったで楽しい部分もあるけれど、めんどくさい部分や困る部分も │たくさんあることぐらい、実和が一番知っているんじゃないの? 実 和 │それは、あんたたちが結局は友情で結ばれているからよ! だから携帯だろうがなんだ │ろうが信頼していられるのよ! なずな │ちょっと待ってよ!! あたしたちの友情はどうなのよ! 知 里 │そうよ。 毎日メールしてきたのにひどいじゃん! 実 和 │お天気や塾や好きな人の話を一方的にしてきて何が友情よ! │ さやか │実和、そんな心にもないこと言うもんじゃないよ。  葵 │そうだよ。 みんなに気を遣って、誰のメールにもすぐに返事を送ってあげたから、 │みんなから信頼されているんでしょ? 麻 子 │わざわざ自分を悪く見せることないよ。 稲 本 │オレもさあ、中田とはサッカーのことでたまーにメールするだけだけどさぁ、やっぱり │信頼できる相手だからこそ、何気ないグチや世間話ができるんじゃない? │嫌いなやつに、「ちょっと聞いてくれよー!」なんて絶対言えないもんな。 知 里 │そうだよ、あたしたちは何気ないメールを実和としたいんだよ。でも、実和の迷惑も考 │えずにごめん。 なずな │いつも実和が励ましてくれたり、いいアドバイスをくれるから、ついつい甘えちゃった。 │ごめんね、実和。 麻 子 │最近じゃあ、あたしたちまで加わっちゃったもんね。 気づかなくて、ごめん。 葵 │だから実和、そんな言い方しないで。 実 和 │わかったわよっ! もういい!! (走り去る) なずな知里│実和ーっ! 稲 本 │大丈夫だよ。 あれで案外優しいからストレスがたまったのかもね。 さやか │あら、案外なんかじゃないわよ。 実和はすっごく優しいの!!  葵 │そうだよね。 だからこそああやってみんなのメールを受け止めてあげようとしたんだ │ものね。 なずな │実和大丈夫かなぁ。 知 里 │結構ショックだったかもね。 麻 子 │大丈夫だよ。 実和だもん! │ みんな口々に、「そうだね」「大丈夫だよ」といいながら立ち去る。 │ 子供1 │次は少し速い球行くぞー 子供2 │いいよー! バッチリとってやるよー。ナイスボール! │よ−し、負けないくらいいい球をなげるぞー! それっ! 子供1 │わーっ、すっごくいい球だよ!うまくなったよね。 子供2 │君のほうこそうまくなったよなぁ。 子供1 │君のおかげだよ。サンキュー! 子供2 │こちらこそありがとう!! │ │ │ 誰もいなくなった舞台に実和がやってくる。 │ 実 和 │あーあ、こんな時に本音を打ち明けられる友達がいればなぁ。 なずなや知里にひどい │こと言っちゃったしなぁ。 いまさらメールできないし。 │さやかなら、今のあたしの気持ちをわかってくれるんだろうけどな。 │だめだー!さやかは携帯持ってないんだ。 でも、誰かに相談したいな……そうだ !! │ │ 何かを思いついた実和は、携帯を取り出しメールを打ち始める。 │ 実 和 │さやかへ │今日は本当にありがとう。 なんだか目が覚めた気がする。 あんな風に本音を │ハッキリ言ってくれた友達なんて、今までいなかったんだ。 │さやかのことをバカにするようなことばかり言っていたあたしなのに、心配してくれて │本当にありがとう。 さやかは携帯を持っていないから、このメールは届くはずはない │けれど、どうしても言いたくてメールしたんだ。 │ │ スッキリしたように携帯を閉じる │ 同じ頃、さやかがひとりで歩いていると、何かに気づき手を伸ばしてつかまえる │ そっと耳にあてる  目を閉じてじっと念じる │ 実和の携帯に着信がある │ 実 和 │あれ? 誰からだろう? │実和へ │今までみんなのメールを、というよりみんなの悩みを受け止め続けて大変だったね。 │お疲れさま。 │ 途中からさやかの声に代わっていく。 (さやか)│いつも笑顔でみんなのグチを聞き、相談にのり、励まし続けた実和に拍手を送ります。 │これからは、わたしともっと話をしない? 私はみんなと違って思ったことをズバズバ │言うから、覚悟していてね!    さやかより │ 実 和 │さやか?!さやかからどうしてメールが?! │ │ 急いで返信しようとして、手を止める 携帯を閉じ、空を見上げて      │ 実 和 │やーめた。 明日会って、今の嬉しい気持ちを直接言わないとね! ねっ、さやか!! │ │  離れた場所で空を見上げて │ さやか │うん、待ってるね!! │ │ │ ────────  幕 ─────── │ │ │ │ │ │ │ │ │ │ │ │ │ │ │ │ │ │ │ │ │ │ │ │ │ │ │ │ │ │ │ │ │ │ │ │ │ │ │ │ │ │ │ │ │ │ │ │ │ │ │ │ │ │ │ │ │ │ │ │ │ │ │ │ │ │ │ │ │ │ │ │ │ │ │ │ │ │ │ │ │ │ │ │ │ │ │ │ │ │ │ │ │ │ │ │ │ │ │ │ │ │ │ │ │ │ │ │ │ │ │ │ │ │ │ │ │ │ │ │ │ │ │ │ │ │ │ │ │ │ │ │ │ │ │ │ │ │ │ │ │ │ │ │ │ │ │ │ │ │ │ │ │ │ │ │ │ │ │ │ │ │ │ │ │ │ │ │ │ │ │ │ │ │ │ │ │ │ │ │ │ │ │ │ │ │ │ │ │ │ │ │ │ │ │ │ │ │ │ │ │ │ │ │ │ │ │ │ │ │ │ │ │ │ │ │ │ │ │ │ │ │ │ │ │ │ │ │ │ │ │ │ │ │ │ │ │ │ │ │ │ │ │ │ │ │